第32話 兄妹対決??
なぜ、こうなったのか。
俺は、喫茶『alive』の店長が失恋により、出勤不能ということで、住み込みで、蜜柑、雫ちゃん、桃果ちゃんとバイトをすることとなった。
本来なら、今日から住み込みの予定であった。
ただ、女性陣は色々と準備もすることが多いようで、明日から住み込みのバイトは始まる。
俺は、しばらく実家に帰らない。
杏樹もソフトボールの合宿があるようなので、1週間は実家にいないようだ。
そのため、しばらく疎遠になるということで、練習を河川敷で付き合っていた。
「はーい! ストライクー!!」
杏樹は、忘れているかもしれないが、コスプレ大好きな妹ではない。
高校2年生ながらソフトボールのエースである。
「兄ちゃん? そんな腰が引けたら、私から打つことはできないよ??」
「いやいや、速すぎるって!」
杏樹のストレートは、一般の高校生よりも速い。
それに、俺は打つよりも守るタイプの選手である。
「これじゃあ、練習にならないよ」
「よ、よし! なら俺が投げてやる!」
「兄ちゃんが、投げてくれるの??」
杏樹は、目を輝かせた。
俺も小学校の時は、ピッチャーをしていた……。
小学生の時はね!
俺は、静かにマウンドに立った。
そして、杏樹に声を掛けた。
「いくぞ! 杏樹!」
「来い来い! 兄ちゃん!」
俺は渾身の1球を投げ込んだ。
(こーん!)
俺の投げた球は、壁に跳ね返って、ピッチャーマウンドに戻って来た。
とんでもない、クソボールだった。
打席の杏樹をみると、軽く睨まれている気がした。
「まだ、初球だからね、焦らない。焦らない!」
俺は、気を取り直して、2球目を投げた。
(こーん!)
今度は、さっきよりもストライクゾーンに近い。
ベース3個分まで近づいた。
「兄ちゃん? ボールに変わりはないよ?」
「ふん、気にするな。まだツーボールだ」
とにかく、ストライクゾーンに投げないと、何か言われてしまう。
――ちょっと力を抜いて投げるか?
――全力で投げるか??
そんなの答えは1つに決まっている。
――全力投球だ!
「行くぞ! 杏樹!!」
俺は魂を込めて、全力投球をした。
なかなか良い感触!
しかし、良い感触と思ったのは、俺だけであった。
(かきーん!!)
――え??
「おっとぉぉ? 杏樹選手! 確信ホームラン! ゆっくりと歩き出す!」
杏樹は、ご機嫌になり、自らアナウンスを入れた。
まさかの杏樹にホームランを打たれた。
それも完璧な当たりであった。
「つばさ選手! がっかりと膝をつく」
「変なナレーション入れないでくれ」
杏樹がソフトボールで、活躍していることは知っている。
しかし、一球で仕留められるとは……。
俺は、バッターとしては完璧に抑えられ、ピッチャーとしては、ホームランを打たれ、兄ちゃんの面子は丸潰れである。
俺たちは、ある程度体を動かしたので、最後にキャッチボールをすることにした。
「杏樹、合宿気をつけろよ」
「うん、ありがとー!」
杏樹は、練習しすぎることがあるから、兄ちゃんはとても心配である。
杏樹は、一つのことに夢中になると、他を考えられないぐらい夢中になってしまう。
ある日、コスプレが趣味になったことで、杏樹のソフトボールへの熱が分散されるようになった。
そのため、合宿期間中は、ソフトボール以外考えなくなるので、熱中しすぎないかが不安である。
「兄ちゃんこそ、心配だよ」
「え?」
「蜜柑お姉さんと喧嘩してるでしょ?」
杏樹は、蜜柑と喧嘩していることを知っていたようだ。
しかし、あの祭り以降、2人は会っていないはず。
「え? 昨日一緒に遊んだよ?」
――そうだった。2人は俺に関係なく遊ぶんだった
蜜柑と仲の良い杏樹にとっては、見過ごせない件だろう。
蜜柑はとても不安そうに見つめる。
さっきまで、ホームランを打って浮かれていた人には、とても見えない。
「俺が完全に悪いから、この期間中にしっかりと謝るよ」
「絶対だよ??」
曇っていた、杏樹の顔が晴れた。
これ以上の心配かけないように、しっかりと誠意を持って謝ろうと思う。
「兄ちゃん! もう1打席! お願い!」
「えぇ? また確信ホームラン打たれちゃうじゃん」
「心配ないよ! 力抜いて振るから!」
力みがなくなったら、さらに飛ぶと思うんだが……。
俺はこの後、結局3打席追加で勝負を挑まれ、2本ホームランを打たれた。
――脱帽……。




