第31話 店長の失恋
8月も入り、1週間が経過した。
8月は夏祭りから始まり、馬場さんの襲来。
そして、桃果ちゃんとの水族館デートなど、様々なことが数日で起きた。
俺は、まだ蜜柑が謝ることはできていない。
蜜柑は8月に入ってから、課題が忙しく、学校に缶詰になっていると言う。
動画作りは、かなりの時間と労力、そしてアイディアが試される。
俺も、コツコツと進めてはいるが、進捗はあまり良くない。
このままだと、俺も缶詰になるだろう。
しかし、今日は蜜柑が久々にお店にやってくる。
前回の一件をしっかりと謝ろうと思う。
そんなことを考えていた時、事件は起きた。
「えーー?? 店長が失恋??」
机や床などの整頓をしていると、更衣室の方からガールズトークが聞こえてきた。
今日は、雫ちゃんと蜜柑、そして桃果ちゃんの3人がシフトの予定である。
――店長が失恋??
どうやら、数週間前に彼女に振られてしまったようだ。
そういえば、最近店長はあまりお店に来ていない。
来ても、まるで枯れた花のように気力を感じていなかった。
「つばさくん、こっちに来て」
店で準備をする俺に、雫ちゃんが更衣室へ案内して来た。
店長の失恋の話は、川昇先輩から雫ちゃんに伝えられたようだ。
川昇先輩も忙しく、バイトに来れない。
そのため、次にバイト経験の長い、雫ちゃんに連絡が来たらしい。
「店長が、来週まで店を空けるみたい」
雫ちゃんが、3人に向かって発表をした。
「お店がしばらく閉まるのか、急に予定が空いちゃうなー」
俺は、小さな声でつぶやいた。
すると、雫ちゃんが指を振りながら、話を続けた。
「店長が帰って来た時に、この店の売り上げが0だったら、もう店長は立ち直れません」
喫茶『alive』は、売上は良いが、決して余裕があるわけではない。
何日も店を空けると、店の存続に影響が出てしまう。
ましてや、彼女に振られ、お店も閉じることとなれば、店長は立ち直るきっかけがなくなってしまう。
「という訳で、つばさくん、この1週間。私達は住み込みで、このお店を営業します」
――住み込みで営業??
というか、《《達》》って言ったね?
――少しだけ、嫌な予感がする
蜜柑も桃果ちゃんも住み込みバイトをするらしい。
――良かった。俺ではなかった。
3人が住み込みで働けば、この店の営業も問題ないだろう。
田嶋先輩も俺もシフトは入れるし、問題はない。
「つばさ。あなたも住み込みリストに入ってるよ?」
蜜柑からの突然の発表。
なぜ、俺も住み込みでバイトをしないといけないのか。
「え、なんで俺も?」
「だって、今シフトなくなるの嫌って言ってたじゃん」
――確かにそうは言った
ただ、泊まってまで、仕事をしたいとは思わない。
「止まるって言っても、どこに泊まるの?」
そう、4人も泊まれるところなんてあるのか。
「この店の2階も、店長の持ち家らしくて、部屋は4部屋あるし、そこを使って良いとのこと」
この喫茶店は2階建てであり、店長が上の階を使っているところを見たことはなかった。
驚いている俺に、雫ちゃんが店長からの伝言を教えてくれた。
「『店を続けてくれるなら、バイト代は弾む。食料も好きに使って良い。私はちょっと旅に出ます』との事だよ」
正直、店長にはお世話になっているし、バイト代も弾むなら、住み込みで働いても良いかと、気持ちが揺らいだ。
「に、西城さんも、一緒に働かない?」
桃果ちゃんからのお願い。
失恋繋がりで、何か断りにくい。
「うーん、まぁ楽しそうだし良いか……」
俺は渋々、了承した。
「私が言うと、嫌な顔したくせに、桃果ちゃんが言うと、すぐオッケー出すんだね」
あれ、また蜜柑が起こっている気がする。
「そう言う訳ではないけど……」
俺は、困りに困った。
また、関係が悪くなった気がする。
「まぁまぁ、しばらくの間、よろしくね!」
(きーん、こーん、かーん、こーん)
突然、市内アナウンスが、鳴り響いた。
この合図はまるで、ドタバタな1週間に始まりの合図のようであった。




