表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
珈琲を焙煎してたら恋琲になっていました  作者: エンザワ ナオキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/23

第1話 喫茶『alive』へいらっしゃいませ!

 新学期が始まり、新しい環境にもようやく慣れ始めた4月下旬。

 人々にとって、待ちに待った大型連休が始まっていた。

 ゴールデンウィークで楽しい休日を過ごす中、つばさは、高熱を出してうなされていた。


「つばさー、まだ熱は下がらないのか?」


「あぁ……昨日よりは落ち着いてるけど、喉が痛くて……」


 電話の相手は由宇希ゆうきであった。

 由宇希は、ゲーム配信をしており、ゴールデンウィークは、配信強化週間として活動している。

 そのため、俺にも動画に出演して欲しいと休み前から言われていた。

 かっこよく言うと〈出演オファー〉と言うやつだ。


「まぁ早く治して、オーバーウィッチしようぜ!」


 オーバーウィッチは自身が魔法使いとなり、陣地を取り合うPvPのゲーム。

 ゴールデンウィークはやり込もうと張り切っていが、熱はなかなか下がらず「早く元気になるよ」と伝え、電話を切った。


 ――あぁ……せっかくのゴールデンウィーク、ゲームも出来ず、新しいバイトも出来ず……今出来ることは寝るだけか……


 そんな意気込みも実らず、体調が戻ったのは、ゴールデンウィーク最終日だった。


 ゴールデンウィーク最終日、バイト初日


 体調がようやく落ち着き、ゴールデンウィークをようやく楽しめる……と思いたいところだが、新しいバイト先での最初のシフトの日であった。


「今日からお世話になります。西城つばさです。初日早々、風邪をひいてご迷惑おかけしてしまい、ご迷惑おかけしました」


 朝の開店前、新しいバイト先の喫茶店『alive』に出勤していた。

 ゴールデンウィーク初日から、シフトが入っていたが、熱が出てしまい休んでいたのだ。


「よろしくね! 西城さん!」


 明るい声で店長が挨拶に答える。

 名前は『縁側光洋えんがわ こうよう』。

 年齢は30歳ぐらいで、前のバイト先の店長と雰囲気は似ているように見えた。

 

 俺は前のバイトを辞め、金銭事情が厳しくなることを危惧し、新しいバイト先を探していた。

 その時、ふと駅前に喫茶店を見つけた。

 元々つばさは、喫茶店で働きたいと思っていた。


 卒業まで2年、おそらく最後のバイトになるだろうから、やりたいバイトをしようと考え、時給は少し安めであったが、憧れだった喫茶店のバイトについた。


「わからないことあったら、私に聞いてね! 呼び方は西城くん、いやつばさくんでいいかな?」


「はい! 好きなように呼んでください」


 黒髪をかきあげ、気さくに話しかける女性。

 彼女の名前は『川昇美代かわのぼる みよ』。

 大学4年生である。


「俺にも聞いてくれ、一応バイトリーダーだから」


「はい! よろしくお願いします!」


 パスタの下準備をしながら、あいさつをする男性。

 彼の名前は『田嶋健太たじま けんた』。

 川登と同じ大学に通う3年生である。


 一通り挨拶を終え、仕事の説明を受けた。


 すると、店長がコーヒーを淹れてくれた。


「西城さん。うちのコーヒーのんだことある?」


「はい! 1年前にお店に来たことあります」


「そっか、朝の賄いと思って、このコーヒー飲んでみて」


「は、はい……」


 そういうと、店長はコーヒーを差し出した。

 真っ黒なコーヒーを見つめる。

 理由は簡単。ブラックコーヒーを飲めず、以前に来店した時も、カフェオレを飲んでいた。


「あれ? つばさくん? まさかブラック飲めないの?」


「そ、そんなことないですけど」


 コーヒーへの躊躇姿をみて、川澄先輩はブラックを飲まないことを当てた。


「喫茶店の店員が、ブラック飲めないのはねぇ」


 田嶋先輩も手を動かしながら、俺に詰めてくる。


「飲めますよ!」


 川澄先輩と田嶋先輩の煽りに、答えるようにコーヒーを飲んだ。

 ブラックコーヒーを飲むのは、幼少期に父にウーロン茶と間違えて飲まされた時以来だ。


 ――に、にがい……でも……


 俺は、覚悟を決めた。苦みに耐えながら、飲み干す覚悟であったが、昔よりもブラックコーヒーが飲みやすい気がしていた。


 ――このコーヒー、あまり苦くない?


 飲んでいたコーヒーを見つめながら、店長に質問をした。


「このコーヒー苦くないですね! 私、ブラック飲めないんですけど、すごく飲みやすいです」


「あぁ砂糖入れておいたからね」


 店長はガムシロップをコーヒーに入れていたようだ。

 店長は、苦いコーヒーを飲めないことを見抜いていたようだ。


「今日のコーヒーは、かなり出来が良い。この店を辞める時には、この渋みがわかるようになって欲しいな」


 そういうと、店長は川昇先輩と田嶋先輩の分もコーヒーを淹れた。


「私たちは、ブラックで飲めるからねー」


 微笑む川昇先輩と田嶋先輩を見て気づいた。

 2人は、このコーヒーに砂糖が入っていることを知っていただろう。


「店長は好みを外さないからね。店長は、人の好みを外さないんだよ」


 川澄先輩もバイト初日に同じことをされたようだ。この喫茶店では、新しいバイトにコーヒーを飲んでもらうことが、恒例行事らしい。そして、店長は人柄を見ただけで、その人の好みがわかるらしい。


 説明を一通り終え、いよいよ喫茶店は開店した。開店と同時に『alive』は、ランチタイム。

 

 必死にオーダーを取るが、スーパーでのバイト経験しかなく、飲食店で働くのは初めて。

 オーダーとお店のメニューを覚えることが、最初の課題になりそうだ。


「はい、カルボナーラですね」


「すいません! 珈琲おかわりお願いします」


「お兄さん! カレーライスとカルボナーラ1つずつお願いします」


「おにーちゃん、からーげとすぱげちい、いっこずつおねがいします」


 喫茶『alive』の名物は、カルボナーラ。このカルボナーラと店長が焙煎した珈琲のセットが、注文の4割を占める。


「4卓、カルボナーラ追加4つです」


「店長、アイスコーヒーとカフェラテ、お願いします」


 厨房は田嶋先輩、マスターは店長、川昇先輩もウェイターと厨房の二刀流であり、俺はウェイター専属の布陣となっている。

 喫茶店のバイトをする上で、オーダーを覚えられるかが懸念点であったが、案の定不安は的中してしまう。


「田嶋先輩……カルボナーラ2つでした」


「店長! 1択、珈琲追加でした!」


「店長! カフェラテじゃなくてカフェモカでした」


「店長!!……田嶋先輩!!……」


 ランチタイムを終え、客足はひと段落する。

 乱れている店内を、川昇先輩と一緒に整えていく。

 満席だった店内も、今や1人もいない。


「つばさくん……」


「店長……」


「あなた、覚え意外と悪いのね! オーダーミス8件は、この喫茶店開業以来の新記録だよ!」


 店長も驚くぐらいのオーダーミスを繰り返したが、川昇先輩がフォローしてくれたおかげで、滞りなくランチの時間を終えることができた。

 俺は、ここまでウェイターとしての素質がないことに悲しみに暮れていた。

 その姿を見て「どんまい! 新米!!」と川昇先輩は、笑顔で励ましてくれた。

 「半年でオーダーミス記録を更新する人が出るなんてな」と話す田嶋先輩。


 どうやら俺と同じぐらいミスを多発する人がいるらしい。


「その人と友達になれそうです。田嶋さん、その方は、何回ミスしたんですか?」


「さ、1日だったら最高3回ぐらいかな……」


 その回数を聞いて、さらに落ち込んだ。


「つばさくんのオーダーミスは、初めてのウェイターの仕事だったから仕方ないよ。彼女は、半年も働いてる人の記録だから! 今でもウェイターとしては、半人前だからね」 


「ウェイター? っということは、厨房として、働いてるんですか??」


「そうだよー! 今は、厨房で働いているよ。『alive』のレシピは、ほとんど彼女が考えたんだよ」


 田嶋先輩は、もう1人の従業員の彼女のことを説明してくれた。

 その彼女は、料理の専門学校に通っていた。

 1年前、喫茶『alive』は、閑古鳥も泣くほどであり、店長は店じまいも覚悟していたようだ。

 店長は最後の賭けとして、彼女に新メニューを考案してもらったようだ。


 そして、その料理が雑誌にも取り上げられるぐらいの大ヒットとなり、無事にV字回復を成し得たのだ。


「つばさくん、そろそろあがって良いよ。あ、浦島さんに挨拶だけしてあがってね」


「はい、ありがとうございました」


 店長は初バイトを終え、お疲れ様と労う。

 あまり褒められる初日ではなかったが、次回取り返そうと決意する。

 俺のシフトは14時までであり、浦島さんは14時からで、入れ替わりであった。


 ――ん? 浦島さん? どこかで……というか聞き覚えがあるな……

 

 聞き覚えのある『浦島』という苗字。


 ――まさか、浦島雫じゃないよね……


「店長、雫ちゃんが来るってことは、健ちゃんはウェイター??」


 ――今、川昇先輩、雫ちゃんって言った??


 まさか、新しいバイト先に……初恋の相手が、働いているとは。

 唖然としているつばさを待たずに、喫茶店の扉の開ける鈴の音が店内に響いた。

 

「お疲れ様です」


 俺は、鈴の音の先を恐る恐る覗く。


 ――し、雫ちゃんだ……


「新しいバイトさんですね! はじめまして、浦島雫と言います……って、あれ? つばさくん??」


 見覚えのある髪型、聞き覚えのある声、愛嬌のある顔立ちが、俺の奥に眠る記憶を蘇らせた。


「久しぶりだね! 浦島さん……よろしくね……」


「今日からの新人さんって、つばさくんだったんだね! よろしくね!!」


 雫との再会は、中学生以来である。

 1年前に同窓会もあったが、俺は風邪を引いて寝込んでいた。


「あれー? 知り合いなのかー??」


「はい、美代先輩。つばさくんは中学の同級生です」


「あらーこんな偶然あるんだねぇ」


「はい、私もびっくりしました」


 本当にこんな偶然があるんだって、驚きを隠さなかったが、好きだった雫と同じバイトが出来ることに、嬉しさ半分、緊張半分であった。




 ーーおまけーー


 喫茶『alive』人気料理ランキング


 1位 カルボナーラ(店長考案)

 2位 若鶏のチキン南蛮(浦島考案)

 3位 からあげ定食(浦島考案)

 4位 とりそぼろとたまごの親子丼(浦島考案)

 5位 チキンスパゲッティ(浦島考案)

 6位 照り焼きチキン(浦島考案)

 •

 •

 •

 10位 カレーライス(店長考案)


「雫ちゃん……鳥料理好きなんだね……ってか、店長の料理全くランキングに入ってない!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ