第25話 失恋は人生の起承転結「承」である
桃果ちゃんが、失恋相手の馬場さんの接客をしてくれることとなった。
俺は、厨房でカルボナーラを作り始めた。
以前、雫ちゃんに教わった時よりも、手際も良く、味も及第点までは、いけるようになった。
カルボナーラを作り初めて、しばらくすると、厨房に蜜柑がやってきた。
蜜柑は、かなり急いで来たようだ。
「桃果ちゃんが、お客さんと言い合いしてるの!」
――え、桃果ちゃんが言い合い?
まさか、馬場さんと言い合いするとは思わなかった。
俺の不安が的中してしまった。
俺は、急いで喫茶店の店内に顔を出す。
すると、馬場さんが椅子に座り、あぐらをかきながら、桃果ちゃんと口論していた。
2人の近くには、川昇先輩も見守っていた。
「あなたみたいな押しの弱い子、きっとあいつは勘違いするわよ? そして、そういうやつらは振られて、バイト先に居られなくなるの」
馬場さんは何を話しているんだ。
振られてとか、バイト先に居られなくなるとかで、話の内容は想像がつく。
馬場さんは、『異性に好意を匂わせて、告白を相手からさせ、最終的に振る』という、趣味を持っていると、俺は予想していた。
現に、俺と一緒に始めた、オープニングスタッフも振られていることを知っている。
恋は盲目とも言うが、俺はなんて人に告白をしてしまったんだろうと、改めて思ってしまう。
「そ、そんなことして、なにがあるんですか?」
桃果ちゃんは、純粋に疑問に思ったのだろう。
本当に何があるのか、わからない。
「楽しいわよ、私に劣る男に手のひらで転がして、振った後のあの顔と動転した態度。ここまで来るのが大変なんだから」
馬場さんは、どんどん饒舌になっていく。
桃果ちゃんが、少しずつ押されている。
「モテる人の考え方は、わからないわね」
川昇先輩も、2人の間に入るように仲裁の位置にいてくれている。
川昇先輩の話も、嘲笑うかのように聞き流す馬場さんであった。
「非モテには、わからないでしょうけど、こういう《《ゲーム》》をしていかないと、ただ振るだけだと味気ないでしょう。ゲームはあいつも好きだったよね」
「あ、あなたは寂しい人ですね」
馬場さんのトドメのような文言に、桃果ちゃんは言い返した。
「は? 寂しい??」
「あ、あなたは、人を弄ぶことを楽しみすぎて、本当の優しさに気づかない。だから、あなたがそんな人で良かったです」
桃果ちゃんは、何を言っているか、俺にはあまり理解ができなかった。
「あれ、あなた? まさかあいつに気があるの?」
馬場さんが、桃果ちゃんに煽りを入れる。
桃果ちゃんが、俺に気があるとは思えない。
「あ、あります……。西城さんは優しくて、大好きです。私が本物の愛を……」
「桃果ちゃん?」
川昇先輩が途中で話を食い止めた。
振り向くと、俺と目があった。
俺がいたことは、知らなかったのだろう。
すると、桃果ちゃんは厨房に向かい、走って行った。
「馬場さんだっけ? 今日は帰ってもらっていいかな? お題は結構だから、ごめんね」
「つまらない人たち……わかりました」
川昇先輩は、馬場さんを引き返した。
桃果ちゃんの素直な気持ちが店内に響いた。
馬場さんもつまらなくなったのか、それとも、何か思うことがあったのか、途中で店を出て行った。
「意気地無しな男だね」
去り際に馬場さんは、俺にそういった。
桃果ちゃんは、その日のシフトは早退した。




