第24話 来客者は失恋相手
人は生きている上で、もう一生会いたくないと思う人は、少なからずいる。
平凡に過ぎるはずだった夏休みのある日。
俺は、会いたくない人と再会を果たした。
「お、お久しぶりだね、馬場さん」
俺は、この人を茜ちゃんと呼んでいたはず。
しかし、名前で呼ぶのは何か嫌だった。
「つばさくん、ここで働いてるの??」
「そうだよ、バイト変えたからね」
俺は、この喫茶店で、働いていることを言いたくはなかった。
しかし、客観的に見て、俺はここの制服を被り、店の裏でグミを食べていた。
ここで働いてなかったら、不審者である。
もうなんでもよいから、早く帰って欲しかった。
「私、お昼食べてないからここで食べていこうかな? このお店ってすごく美味しいって聞くし」
――まじかよ
こんなに気が進まない話はなかった。
ウェイターを少しの間変わってもらうか悩んだ。
しかし、蜜柑とは喧嘩中。
川昇先輩に話したら、余計なことが起きそう。
今日は店長もいないため、桃果ちゃんに厨房を任せることとなっている。
――こうなったら、店員としてのプライドで乗り切るしかない
「た、食べていきなよー」
俺は笑って話したが、きっとここ数年で1番の引き攣った笑い顔であっただろう。
◇
俺は、先導で馬場さんを店に案内した。
「ここが、最近有名な喫茶店か」
「うん、ゆっくりしていってね」
俺は先に案内すると、他の客の接客に出ようと思ったが、人がいない。
――なんで今日に限って閑古鳥鳴いてるんだよ
カウンターの方を覗くと、蜜柑がこちらを見ていた。
俺は蜜柑に視線を送るが、知らんぷり。
喧嘩もしているし、当たり前だろう。
「おすすめお願いできる?」
「あ、はーいおすすめは、カルボナーラとなっています」
俺は、少し声が裏返った。
こんな返事したことがない。
流石に、自身が気持ち悪かった。
「じゃあ、カルボナーラとカフェラテでお願いね」
俺は、馬場さんから注文を受け取った。
今日はお客さんは少ない。
しかし、このバイトを初めて一番疲れることは確信した。
俺は、厨房に向かい桃果ちゃんに注文を伝えた。
「に、西城さん? 何かあったんですか? 木ノ下さんと悪化しましたか?」
あからさまに元気はなかったのだろう。
俺は、蜜柑との喧嘩もあるし、余計なことは伝えたくはなかった。
「あぁもう、失恋相手が来てるなんて言えないよ」
「え、そんな人来てるんですか?」
――やば、心の声が漏れてしまった
今日は色々とぐちゃぐちゃな日である。
仕方なく、簡潔に要点だけを、桃果ちゃんに伝えた。
「な、なんて酷い人……西城さん、そんな人忘れてください」
そういうと桃果ちゃんは、グミを渡してきた。
このグミは、さっき食べてたバズっているグミ。
桃果ちゃんもグミとか好きなんだね。
ありがとう、桃果ちゃん。
少しだけ気持ちが落ち着いた。
話すと楽になるとよく聞くが、こう言うことなのだろうか。
「に、西城さん……カルボナーラなら作れますよね?」
確かに、カルボナーラは雫ちゃんに教わった。
作れないことはない。
「うん、作れるけど」
「な、なら、私がその人が来ている間、ウェイター変わります」
すごくありがたい話ではあるが、桃果ちゃんはウェイターの経験はあまりなく、かなり心配である。
「で、出来るの??」
「で、出来ます! 任せてください!」
桃果ちゃんは、自信満々の笑顔とサムズアップを見せてくれた。
どこからくる自信かはわからないが、1人だけなら大丈夫かと思い、任せることにした。
「なら、お願いしても良い?」
桃果ちゃんは、一歩歩くごとに、振り向きながら無言で再びサムズアップを繰り返し、店内へ向かった。
――心配だけど、任せたよ
こんなに心配なことはない。
しかし、ウェイターを桃果ちゃんへ任せたことが、大事件の引き金になることは、誰も知る由が無かった。




