第22話 夏祭り本番
俺と杏樹と蜜柑は、駅前の夏祭りに出向いていた。
駅前はたくさんの人で溢れかえっていた。
ここら辺の地域では、最大級のお祭りである。
たくさんの出店が並ぶ中、ひとつのお店を見つけた。
「あれ、つばさくんじゃない」
声をかけて来たのは、久々の登場である、川昇先輩であった。
川昇先輩の父さんは、町内会での会長をしており、出店を出しているようだ。
「美代先輩、お疲れ様です!」
最近川昇先輩は、バイトに来ていなかったが、数回は顔合わせがある。
というか、俺も面識は少ないと言っていいだろう。
「あれれ? 2人付き合ってるのかな? これは、バイト先のレディー達に耳打ちしないと!」
「つ、付き合ってないですよ!」
確かに、周りから見たら浴衣デートをしている二人組に見えるだろう。
なぜなら、色違いの浴衣でもあるから。
――杏樹がいてくれて良かった
俺が、川昇先輩に杏樹を紹介しようと思ったが、周りを見てみるとどこにもいない。
――どこいった??
人が多いため、探すのも一苦労。
電話をかけるにしても、杏樹は常にマナーモード設定のため、電話になかなか出ない。
「川昇先輩、妹がいなくなったので、探して来ますね」
「私も手伝うよ!」
俺と蜜柑は、杏樹を探すために、川昇先輩の元を後にした。
「おーい! いつから付き合ってるんだー? 教えろー!!」
川昇先輩からのヤジが聞こえてくる。
祭り会場を念入りに探すが、杏樹はどこにも見つからない。
こうなったら次の捕獲作戦に出る。
「まぁどこかにはいると思うし、りんご飴でも買うか」
「え? 杏樹ちゃん、心配じゃないの??」
「まぁ、遠く行って行き違いになるかもしれないし」
そういうと、俺と蜜柑はりんご飴を買い始めた。
ふと隣を見ると、蜜柑は心配そうに周りを見ている。
川昇先輩には、カップルに間違えられたけど、そう思っても仕方がないか。
――蜜柑は、好きな人とかいないのかな
蜜柑とは最近よく遊んでいる。
もしも、他に好きな人とか出来たら、もう杏樹と遊ぶ姿も見れなくなるのかと、少し寂しい気持ちになりそうだ。
もしいたら、この姿見られたら嫌だろうな。
「な、何??」
そう思いながら蜜柑を見つめてしまっていた。
慌てて、誤魔化すことにした。
「もしかして? 見惚れていたの??」
「そんなわけないでしょ!」
無意識に見ていたと言うことは、俺は見惚れていたのかもしれない。
――惚れやすい体質をなんとかしたい
りんご飴の順番がようやく回って来た。
俺は、りんご飴を4個注文した。
「3人で来ているのに、なんで4個なの??」
理由は簡単である。
「杏樹が今から2個食べるからだ」
ついでに言うと、俺はりんご飴は嫌いである。
1個は、杏樹が家帰ってから食べるからである。
つまり1個は蜜柑、3個は杏樹の分である。
蜜柑は納得したようである。
「ありがとう! 兄ちゃん!」
杏樹は、気がついたら隣にいた。
両手には、焼きそばと焼きとうもろこし2本、顔には新しいウサギのお面を付けていた。
みかんも安心した顔であったが、杏樹に軽く叱っていた。
杏樹は少し反省したのか、焼きとうもろこしを蜜柑に渡した。
「焼きとうもろこし、美味しそう」
蜜柑は、とうもろこしが好きなようで、杏樹から焼きとうもろこしを受け取った。
というか、その買い物量……。
「あれ、千円超えてないか??」
この量は、千円では買うことはできない。
「ううん! 蜜柑お姉ちゃんから頂いたよ!」
溢れた分はお小遣いで買ったのかと思っていたが、ちゃっかり蜜柑からもお小遣いを貰っていたようだ。
――蜜柑、手間をかけるな……
俺は蜜柑に感謝を伝えた。
それから、祭りの会計は俺がすることとなった。
「いいにょ、いいにょよ、きにしにゃいで」
蜜柑は、焼きとうもろこしを食べながら返答した。
――この2人は、食べること大好きだな
こういうところも、2人が気が合う要因なのかもしれない。
◇
それから、俺たちは祭り会場を一周した。
川昇先輩へ、さっきは紹介できなかった妹も紹介することが出来た。
今日買ったものはというと、たこ焼き2個、焼きそば2個、焼きとうもろこし3本、りんご飴4個、お面1個、金魚掬い3回と前回の記録も更新していた。
――結局たくさん買い物をしてしまった
――年一回のイベントだし、たまにはこういうことも仕方がないか
俺は去年もそういう感情になっていた気がする。
「つばさくん、ありがとうね!」
杏樹より、蜜柑の方に色々買った気がした。
――2人とも、遠慮という言葉は無いんだな
とにかく、みんな楽しく祭りを終えられて良かったと、思うしかない俺であった。
番外編 杏樹、恋のキューピット?
◇
つばさが、蜜柑を車で迎えに行っている時の出来事である。
――よし、今日は兄ちゃんと蜜柑さんをくっつけるぞー!
私は、今日の祭りで、2人を正式に付き合ってもらうために、アシストすることを心に決めた。
私の兄ちゃんのつばさ。
兄ちゃんは、基本的に暗い人間だけど、優しい。
そして、蜜柑さんといる時は、いつも明るい。
きっと、兄ちゃんは蜜柑さんへの好意を気付いていない。
この祭りで、気づかせてやるんだ!
そして、蜜柑さん
蜜柑さんは、兄ちゃんの数少ない友達。
兄ちゃんといる時は、すごく楽しそう。
コスプレもたくさんしてくれるし、すごく優しいお姉さん。
兄ちゃんと付き合ってくれれば、蜜柑さんはもっとお家に来てくれる。
――絶対に付き合わせる!!
こんな逸材を手放すわけには行かない!!
杏樹の目的は、つばさと蜜柑が付き合うというより、蜜柑を離したくないというのが、本命であった。
◇
祭りでつばさと蜜柑が迷子になった杏樹を探している時……
――くっつけ! もっとくっつけ!!
2人からは見えないところで、視線を送る杏樹であった。




