第19話 夏のはじまりは、同窓会から始まる
料理対決から2週間ほどが経った。
桃果ちゃんも雫ちゃんも、料理対決の前より仲良くなり、お互いに料理について語る場面も多くなった。
2人が提案した〈鶏皮チップス〉と〈フィッシュアンドチップス〉は、お客さんからの要望もあり、両方がメニューとして追加されている。
そして、季節は7月に入る。
みんなが待ち望む夏休みは、あと少しで迎える。
俺も映像の課題が多くなりそうであるが、このバイトは楽しい。両立できるか不安ではあるが、どちらも頑張っていくつもりである。
「もう夏の時期なので、夏メニューを追加します」
店長は、更衣室にある掲示板に夏メニューの内容を記載していた。
雫ちゃんに聞くと、去年も行っていたようだ。
メニューの内容は、〈かき氷〉、〈パフェ〉、〈冷やし中華〉、〈冷麺〉、〈冷やしうどん〉などだ。
喫茶『alive』も夏の色を感じさせる。
そして、夏は恋の季節でもあり……。
「つばさくん。来週に中学の同窓会があるんだけど行く??」
どうやら夏休みに同窓会があるようだ。
そういえば、親友からも連絡が来ていた。
雫ちゃんは幹事をしているようだ。
「うーん、バイトがなければ行こうかな」
俺はあまり乗り気ではなかった。
大人数の呑み会や集まりが得意ではないからだ。
すると雫ちゃんはニヤリとした顔で、話を続けた。
「なら大丈夫だね! 店長にはこの日休みにしてくださいって連絡しちゃってるよ?」
「……え??」
――こっそりバイト入れようと思ったのに
だが、そんな俺の心を読むかのように、雫ちゃんは用意周到であった。
「わ、わかったよ、行くよ」
俺は何かに負けた気がしたが、行くこととした。
「でも、もし私達が同じバイト先で働いてるって聞いたら驚くだろうね」
「そうだね、驚くどころか」
――何か勘違いされそう
俺が中学の時に、雫ちゃんを好きだったことは、同窓会に来るクラスメイトには筒抜けであっただろう。
恐らく、雫ちゃんも気づいていただろう。
雫ちゃんの彼氏にも申し訳ないし、誤解が生まれないように、余計なことは話さないようにしようと心に決めた。
◇
同窓会当日 夜18時
雨上がりでジメジメする天気の中、同窓会が始まる。
同窓会は何度か開かれていたようだが、実際に参加するのはこの日が初めて。
周りを見ると懐かしい顔が揃っていた。
「それではー! 乾杯!!」
様々なグラスがテーブルの上に集結した。
隣に座っているのは、同窓会の連絡をくれた親友の、赤見達也である。
「西城、お前が来るなんて珍しいな」
「懐かしい顔を見たくなったんだよ」
「そっか! アハハハハ」
ここ最近会っていなかったからか、この下品な笑い方も今となっては懐かしい。
そして、同窓会は初参加だからなのか、俺の話がとにかく話題に上がる。
俺がレシーブをする際に「ソイヤ」と祭りの掛け声のようなものを挙げていたことや、球技祭でソフトボールをした際に、逆転ホームランのようなパフォーマンスをして、実はセンターフライで試合終了した話など、よく覚えているなと言う話ばかりだ。
そして、ある話題が上がる。
林間学校の話である。その話を振られると、いやでも雫ちゃんが出てくる。
「林間学校で、西城とシマが迷子になってたなぁ〜ガハハハハ」
シマというのは、雫ちゃんの苗字、浦島のシマから取った愛称である。
達也は酒に弱いのか、いつもより踏み込んでくる。
「あぁそんなこともあったねー」
俺は愛想笑いをして誤魔化した。
「あれから、西城はシマの事を……」
「あーそういえば、達也と春風さんが、急に走り出して、どっかいっちゃったんだよなー」
俺は、達也の話を無理やり切った。
林間学校での迷子の原因は、達也と今は達也の彼女である春風さんが走り出したからである。
「春風さんとは、もう何年付き合ってるんだ? もうそろそろゴールインするのか??」
俺は2人が、まだまだ付き合ってることはSNSで知っていたため、話の内容を切り替えた。
すると、達也は持っていたグラスを置き、陽気に話し始めた。
「はい! みなさんご報告があります」
「この度、赤身達也と春風夏美は、結婚することになりました!」
なんと、親友なのに報告はなかったが、結婚をする事を発表した。
たくさんの祝福が寄せられ、話題はそちらにもちきりとなった。
――話が切れて良かった……
しばらくすると、2軒目に行くか行かないかの話となった。
俺は乗る気ではなかったが、達也が行こうと誘ってくる。
めでたい人の頼みは断ることはできないと、俺も行くことにした。
◇
メンバーは、達也と春風さんの新婚夫婦に加え、雫ちゃんと数名が2件目に行くことになった。




