第16話 後輩は魚好き?
俺と桃果ちゃんは、料理対決のアイディアを求め、隣駅の新しい喫茶店『fish and coffee』に出向いた。
俺は、喫茶店の扉を開けた。
店内からは『alive』間違う空気を感じたが、視界に入って来た光景は、衝撃的であった。
――で、でっかい水槽??
ドアを開けた先に広がっていたのは、大きな水槽であり、その中には、熱帯魚らしき魚が沢山泳いでいた。
〈fish〉の意味は、魚を見ながらコーヒーを飲めるというコンセプトであったのだ。
コーヒーに合う魚料理を探せることを狙って来たが、これだと余り参考にならないかもな。
「す、凄いです! これ、ネオンテトラです! ね、熱帯魚好きなんですけど、最初に飼いたいと思ってるんです」
意外な一面であった。桃果ちゃんは、熱帯魚が好きみたいである。
「いらっしゃいませ〜。 おぉ彼女さん、熱帯魚お好きなんですね。ネオンテトラは、熱帯魚の中ではとても飼いやすく、管理やお金のことも踏まえても、最初に買うのには、オススメですよ!」
「か、か、彼女さん??」
桃果ちゃんは顔を隠した。
「2名でネオンテトラが見やすい席ってありますか??」
「はい、こちらの席はどうぞ」
俺と桃果ちゃんは、ネオンテトラが見やすい席に案内された。
桃果ちゃんは、〈彼女〉と言われ、顔を隠していたが、席に着くと水槽に釘付けになっていた。
俺は当初の目的通り、メニューに目を通した。
どうやら魚料理はありそうだ。
――簡単で、効率の良い料理はないかなー?
そんな都合の良い料理はないかと思った。
「フィ、フィッシュアンドチップスはどうですか?」
桃果ちゃんは、水槽から目を離し、いつの間にかメニューを開いていた。
「確かに美味しそうであるけど」
「これなら、冷凍でも保存出来るので、揚げるだけにすれば、効率が上がりそうです」
なるほど。
確かに『alive』には、冷凍の食品が少ない。
大きな冷凍庫はあるが、入っているのは、アイスとフライドポテトぐらいである。
ポテトと組み合わせても美味しそうである。
「それなら効率面では、かなり有利になりそうだね」
「は、はい! とりあえず注文してみます」
桃果ちゃんはコーヒー2杯、フィッシュアンドチップス、フライドポテトを頼み、他にも魚系の料理を2品頼んだ。
「き、気になるものあり過ぎて、頼み過ぎてしまいました」
ただ桃果ちゃんは、料理を楽しみにしていることが伝わってくるぐらい、目がキラキラしている。
◇
一通りの料理を俺たちは食べた。
かなりお腹は一杯である。桃果ちゃんは、まだ食べたいのか、メニューを確認している。
――これ以上食べたら、趣旨が変わってくるぞ?
俺は桃果ちゃんに今日の感想を聞くことにした。
「どうだった??」
「は、はい。これなら再現出来そうです。私なりにアレンジして、浦島先輩に勝って見せます!」
それなら良かった。
ただ、桃果ちゃんの視線はメニューに向いている。
「デザート、食べて帰ろうか」
「は、はい……」
2人は最後に魚の器に入っている、大きなアイスパフェを頼んで帰ることにした。
◇
時間は昼12時すぎ
俺たち2人は店を出た。
店を出ると、再び強い日差しが容赦なく襲いかかる。
「に、西城さん、今日はありがとうございました」
「おう、雫ちゃんに勝てるように応援してるからね。試食も何回でもするよ」
「あ、ありがとうございます! 何回でも持ってきますね!」
――何回でも?
まぁとにかく、雫ちゃんに勝つことは大変だと思うが、頑張って欲しいと思った。
◇
夕方16時
俺は喫茶『alive』に出勤した。
更衣室へ向かうと雫ちゃんがいた。
お互い「お疲れさま」と挨拶をする。
いつもは髪を下ろしているが珍しく髪を結いていた。
「つばさくん、桃果ちゃんの料理は順調?」
「え? まぁ順調なのかな?」
俺が桃果ちゃんの手伝いをしていることは、誰にも伝えていなかった。
何故、知っているかを聞いてみた。
「本人から聞いたの。公平にならないから、浦島先輩も西城さんにアドバイスをもらって下さいって」
桃果ちゃんにそこまでアドバイスをしたつもりはない。
喫茶店の提案も桃果ちゃん本人からである。
「私も、つばさくんにアドバイス貰おうかなーって思って」
俺が雫ちゃんに出来るアドバイスは無いだろう。
「うーんと、アドバイスと言うと?」
「私、またまた鶏肉料理で勝負しようと思っているの。桃果ちゃんは他の具材で勝負してくる。私は鶏肉料理に賭けていいのかな?」
雫ちゃんの予想は正しい。
俺はなんと答えれば良いのだろうか。
「鶏肉料理でいいんじゃ無い?」は無責任なのか、それとも「他の料理で勝負してみれば?」というのも、プライドを傷つけないだろうか。
「なんてね、答えは出ているの。つばさくん? 女の子がどっちが良いか質問をする時は、大体答えは出ているものだよ」
そう言うものなのか。
ただ、答えは言わないと公平じゃ無いかと思い、少しだけアドバイスを伝えることにした。
「雫ちゃんの鶏肉料理は美味しい。だから、ずっと貫いて欲しいなとは思う」
雫ちゃんは、口が半開きとなった。
その口はすぐ閉じ、微笑んだ。
「その言葉、あの時言って欲しかったな」
そういうと雫ちゃんは、ディナーの準備へ向かったのであった。




