第14話 雫の料理講座
蜜柑と田島先輩の妹の桃果ちゃんが、喫茶『alive』で働き始めて2週間が経とうとしていた。
蜜柑は、バイト経験も豊富であり、順調に仕事に慣れていく。
一方、桃果さんも少しずつではあるが、仕事に慣れて来ている。
そう言う俺もまだ2ヶ月も経っていない。
初日は大失敗であったが、その後はミスは少なくこなせている。
そんな6月下旬の出来事である。
今日は、店の定休日であったが、俺と蜜柑と雫ちゃんと桃果ちゃんは、店に呼び出されていた。
「今日は、つばさくんと桃果ちゃんにこの料理を学んでもらいます」
どうやら、店長から雫ちゃんに2人に店の料理の作り方を覚えて欲しいとのことであった。
俺は家でご飯も作っており、桃果ちゃんは料理学校で学んでいる。ある意味、適任である。
ちなみに蜜柑は、コーヒーの淹れ方を学ぶそうだ。
「つばさくんと桃果ちゃんは、何系の料理が得意とかある??」
「うーん、俺は揚げ物とかは全くしないな。油の処理が面倒だから。焼く系と圧力鍋で作るものは、よく作るかな」
「わ、私は、料理全般作るの好きです。特にデザート系は好きかも……です」
雫ちゃんが、2人の得意分野をメモしていく。
そして、少し悩んだ結果、結論を出した。
「つばさくんは、メイン料理。桃果ちゃんは、料理学校にも通ってるし、全般の料理を覚えてもらいます。」
その判断は正しい。
俺はデザート系の料理は全くしたことがない。
「じゃあ、まずはうちの看板メニューのカルボナーラの作り方を教えます」
雫ちゃんは、材料を取り出した。
俺は基本、ウェイターとして仕事をしていたため、あまり料理姿を見たことがなかった。
流石の手際の良さであった。具材を買っても全て一定のサイズである。
「この生クリームは〇〇グラム入れて」
「チーズは大さじ〇杯」
「卵黄は〇個入れて」
レシピを丁寧に説明してくれた。
そして、雫ちゃんのサンプルのカルボナーラが完成した。
「こう言う感じに作ります。では、作ってみてください」
俺は、自身はなかったが、見よう見まねで作り始めることとした。
まずは具材を切っていく。
しかし、雫ちゃんのように、野菜やベーコンのサイズを一定に切れない。
「つばさくん? ここはね、こうやってこうするの。そうすると一定に切りやすいよ」
雫ちゃんは、丁寧に料理指導をしてくれた。
――頼れます。雫先生!
苦戦する俺とは対照的に、手際良くカルボナーラを作っていく、桃果ちゃん。
雫ちゃんも、言うことがあまりなく、完全に俺に付きっきりである。
そして、悪戦苦闘しながらも、俺は初めてカルボナーラを作り上げだ。
そして、俺と雫先生は、一口食べた。
――味が薄い……
レシピ通り進めたが、明らかに味が薄く、何か物足りない。
そして雫先生は、「黒胡椒、オリーブオイルが足りてないね」と原因を特定した。
改めて食べると、劇的に改善した。
「わ、私も出来ました」
続いて、桃果ちゃんのカルボナーラも出来上がった。
そのカルボナーラを試食をする俺と雫先生。
2人は目を合わせて「美味しい」と感想を述べた。
「よ、良かったです!!」
桃果ちゃんは、安堵していた。
「桃果ちゃん、流石だね! 今度、新メニュー提案してみたら??」
雫先生が、桃果ちゃんをベタ褒めしている。
確かに新メニューを考案した方が、桃果ちゃん自身のスキルアップにも繋がるだろう。
「え、こ、今度考えてみます」
意外にも桃果ちゃんは、新メニュー作りに前向きであった。
「ちょっと待ったー!!」
カウンターで、蜜柑へコーヒーの作り方を教えていた店長が、厨房へ入って来た。
「新メニューを作るなら、イベントを開きたいと思います!!」
「イ、イベント??」
新メニューとイベントに何の繋がりがあるのか、俺たち3人は困惑した。
「浦島さんと桃果さんに新メニューを考えてもらい、評判が良い方を店のレギュラーとします」
「なるほど……」
俺は返事はしたが、理解は出来なかった。
「全く店長は何言ってるんだかね」
と言いながら、2人の方を見ると目が燃えていた。
料理人のプライドが燃え始めていたようだ。
「りょ、料理対決……いいですね! 浦島先輩、ま、負けませんよ?」
「受けて立ちましょう! 私も負けないよ?」
こうして、1週間後に料理対決が開かれることが決定した。
2人はどのような新メニューを考案するのか、俺と店長は楽しみになっていた。
しかし、忘れてはいけないこともある。
そう、俺たちは料理教室の真っ最中であった。
「あの、その前に店の料理の作り方を教えてくださると……」
俺は、当初の予定を忘れていそうな2人に問いかけた。
「あ、そうだったね! 続きをはじめます」
「わ、忘れるところでした……お、お願いします」
再び、雫先生の料理講座は再び開かれた。




