第12話 妹の秘密
俺は、ピンチに陥っていた。
「つばさくん、改めて聞くけど……私はなんで、つばさくんの家にいるの??」
「蜜柑が酔っ払って寝ちゃったから、とりあえず近い実家で面倒を見ようかなと」
「それで、私にこの衣装を着せようと?」
蜜柑は、〈メイド服〉を持っている。
それもかなりフリフリの衣装である。
これは、杏樹がいたずらで用意したものであり、俺は関係ない。
俺は物置部屋の隅っこにある、ぬいぐるみを見つめて、誤魔化す言い訳を考えた。
「違うよ? 妹が服を用意してくれてたんだけど、何かの手違いで、それ……それが用意されてました」
「ふーん」
凄いジト目で見てくる。何を言っても誤解は解消されなそうだ。
「とりあえず、私は帰るね」
「い、いや……もう日付跨ぎそうだけど、駅までは送って行くよ」
「ん、ありがとう……」
蜜柑はベットから降りて、帰る準備を始めた。
すると、部屋に杏樹が入ってきた。
「はじめまして! にいちゃんの妹の杏樹でぇーす!」
杏樹は気まずい空気を切り裂くように、ハツラツとした挨拶であった。
呆気に取られた蜜柑であったが、返事を返した。
「あなたが杏樹ちゃん! つばさ《へんたい》くんからよく話は聞いているよ!」
「あら、そうなんですか?? にいちゃん、私の話ばかりしているんですか?」
そんなことはない。前に休日何してるかを聞かれ、妹のソフトボールの試合や練習に付き合ってることが多いと話しただけである。
それより、へんたいくんって……。
「お姉さん、今日泊まりなよ! もう遅いし、にいちゃんは酔っ払いだから、もう運転出来ないし」
「え、でも……迷惑かけちゃうし……」
杏樹は蜜柑に家に泊まって欲しそうであり、キラキラとした視線を向ける。
キラキラ視線は、杏樹の十八番である。
「なら、お言葉に甘えて」
蜜柑は渋々と了承し、荷物を床に置いた。
すると杏樹は「やったー!! ありがとう!」と感謝を伝えると、蜜柑は物置部屋を飛び出した。
「蜜柑、覚悟した方が良いかも。俺は部屋に入らないから安心して」
「ん? 覚悟??」
蜜柑はキョトンした顔であった。
俺にはこの後の展開が容易に想像出来た。
すると、自室に戻った杏樹が物置部屋に戻ってきた。
「お姉さん! これ着てみて!!」
蜜柑は、たくさんの洋服を持ってきた。
先ほどの〈メイド服〉を始め、〈セーラー服〉、〈ナース服〉、〈チャイナドレス〉などなど……。
そう、妹の趣味は、可愛い女の子に可愛い服を着せることである。
杏樹は、たくさんのコスプレ衣装を持っており、友達にもたくさん着せている。
その結果、杏樹の周りには、コスプレイヤーが多く、SNSのフォロワーも多いとの噂もある。
「お姉さん! はやくはやく♫」
ノリノリな杏樹とは対照的に、驚きを隠せない蜜柑。
蜜柑も理解しただろう……あの服は、杏樹の私物であることを。
――着せ替え人形になることを覚悟してくれ
そう願っていると、蜜柑は何かを決意した。
「泊めてもらうんだもん! このくらいお安い御用だよ! 杏樹ちゃん! 蜜柑お姉さんとお呼び!!」
蜜柑は覚悟を決め服を脱ぎ始める。
そこには、まだ俺もいたので慌てて部屋出る。
「馬鹿、俺まだ部屋にいるんだぞ」
「蜜柑お姉さん! よろしくお願いします!!」
深夜テンションで頭でもおかしくなったのか。
「2人とも、もう遅いんだから、ほどほどにしろよー? もう日付跨ぐぞ??」
必死の問いかけも、部屋からの返事はなかった。
「弁当の続き作るか……蜜柑の分も作ってやるか」
◇
〈コスプレショー〉が始まって、まもなく1時間経過する。
――おいおい、何時までやるつもりだよ
もう、日付は跨いでいる。
俺と蜜柑は午後から学校だが、杏樹は朝から部活のはず。
お弁当の準備は済ませたし、そろそろ寝たい。
――いい加減、寝る準備をしろって伝えに行くか
俺は物置部屋に向かおうとすると、蜜柑が部屋から出てきた。
「見て見てー? これ可愛くない??」
目の前に、一面赤の世界が広がった。
そう、蜜柑は〈赤いチャイナ服〉を自信満々に見せて来たのである。
結構サイズは大きめではあるが、確かに似合っている。
「おー結構似合ってるんじゃない?」
俺は素直な意見を伝えた。
「おう、素直に褒めてくれるのか」
蜜柑は少し嬉しそうであった。
すると「ありがとう!」と笑顔で答え、物置部屋《コスプレ会場》に戻って行った。
すると、入れ替わりで杏樹が出てきた。
「蜜柑お姉さん! 最高だよ! めっちゃ何でも似合う!」
そしてすぐに戻って行った。
ソフトボールの試合で勝った時よりも、杏樹の目がキラキラとしていた。
俺は、新鮮な蜜柑を見れた気がして、杏樹に少し感謝した。
――俺もコスプレが好きなのかもしれない……ではなくて、早く寝てくれ、2人とも
俺はもう先に寝ることにした。
その後、蜜柑と杏樹のコスプレショーは、深夜2時まで続いたそうだ。
その後の学校にて……。
「つばさくん、今日は杏樹ちゃんいるの?」
「いると、思うけど??」
「そっか、ならバイト終わりお邪魔しても良い?」
「いいけど、どうして??」
「新しい衣装を買ったの! 杏樹ちゃんに見て欲しくて!」
その後、蜜柑はコスプレに少しハマり、バイト終わりに家に来るとこが多くなったとか。




