第10話 2つの面接
田島先輩の妹、桃果の面談が終わり、時刻は、蜜柑の面接の時間である、14時になった。
すると、喫茶『alive』の扉が開いた。
蜜柑が扉を半分開けて、店内に声をかけた。
「失礼します。今日バイトの面接予定の木ノ下蜜柑です」
「はい、よろしくお願いします。入って来てどうぞ!」
店長が蜜柑を店内に促した。
「失礼します」と言い、蜜柑は店内をジロジロ見回し、俺を発見した。
目が合い、互いに会釈をした。緊張している蜜柑は、あまり見たことがない。
蜜柑は、店の一番奥の席に座った。
今回の面接担当は、店長と田嶋先輩が担当する。
「店長、じゃあ俺と雫ちゃんは、別室で待ってますね」
「はーい、よろしくね」
俺は、ジロジロ見るのは、申し訳ないと思い、雫ちゃんと一緒に更衣室で待機をしようとした。
「ちゃん??」
「ん? どうかしましたか? 木ノ下さん」
俺には何も聞こえなかったが、店長が蜜柑に質問していた。
「いえ、何でもないです」と言い、出されたブラックコーヒーを飲んだ。
――蜜柑、ブラック飲めるんだ
味覚は蜜柑の方が、喫茶店向きかもしれない。
◇
更衣室で待っている。相変わらず、外は大雨。
スマホをいじっていると、雫ちゃんが「つばさくん?」と話しかけて来た。
俺は、スマホを閉じて「何?」と聞いた。
「木ノ下さんって、つばさくんの彼女なの??」
「は、なんで??」
「木ノ下さんの紹介してくれた時、やけに細かかったし。さっきも、私に〈ちゃん〉呼びしてたら、動揺してたよ??」
「え〜? 俺が女の子と話してるのがレアでびっくりしただけじゃないかな?」
確かに、俺は蜜柑の前で女性と話すことはあまりない。しかも、大体は〈さん〉呼びである。
それに、本人に言ったら、ちょっと失礼かもしれないが、蜜柑とは高校生から仲良かったが、恋愛感情になったことはない。
「そっか……」
そう言うと、雫ちゃんは何か企んだかのように、立ち上がった。
――何か嫌な予感がする
雫ちゃんは「私も面談に付き添ってみようかな」と言い、更衣室から出て行った。
何か胸騒ぎがしたため、面接をカウンターの陰から、遠目で見ることにした。
まだ、面接は続いているみたいであり、店長と蜜柑が、シフトについて擦り合わせていた。
「では、木ノ下さんは、シフトはどのくらい入れますか??
」
「はい、週に3回は、入れるかと思います」
「なるほど」
誘ってみたは良いが、蜜柑の家から少し遠い。ちょっと、大丈夫かなと少し心配になった。
「木ノ下さん、私は基本5回入っているから、仲良くしてね! ちなみに、つばさくんは、4回から5回は入ってるよ」
雫ちゃんが、俺のシフトを公開した。
確かに、今月は5回入っていたが、それは人が少なかったからである。
普段は3回、多くて4回である。
「そ、そうなんですか……なら、私は4回……いや、5回は入れます!!」
蜜柑の家から少し遠いけど、大丈夫かな??と凄く心配になった。
――蜜柑……意地を張るな??
すると店長が「バイト始めてから、シフトの日数は相談ね!」と、現場を丸く纏め、俺のシフト事情も訂正した。
「雫ちゃんもみかんも何してるんだか……」と思いつつ、俺はひっそりと更衣室へ戻った。
その後、面接は無事に終わったようだ。
◇
ふぅ……と一息つく蜜柑に対し、雫が声をかけていた。
「意地悪しちゃってごめんね! 木ノ下さん、どんな人か試してみたかったの!」
「い、いいえ、大丈夫です」
雫は、机の上にあるマグカップを片付ける。
「私、つばさくんと仲良いけど、付き合ってないから安心してね!」
「わ、私もですよ! てか、何でそうなるんですか」
「あれ? 私の勘違いかー」
蜜柑はすごく慌ててしまったことを自認した。
(そんなんじゃないんだから……)
その後、蜜柑は挨拶をして、小走りで帰って行った。
◇
しばらくすると、更衣室に店長、田嶋先輩と雫ちゃんが帰ってきた。
外の雨を小雨になっており、ディナータイムには、お客さんが増えそうだ。
外を見ていると、店長が今日の面談の結果を発表した。
「2人とも、合格です!!」
店長は、裁判結果を出す時によく見る紙に〈合格〉と書いて、みんなに見せた。
こうして、喫茶『alive』に2人の看板娘候補の新人が加入した。
――蜜柑にも連絡しておくか
俺はメッセージで、蜜柑に連絡しようとすると、雫ちゃんが話しかけて来た。
「木ノ下さん、良い子だね! 仲良くなれるかな?」
「なれると思うよ。蜜柑のコミュニケーション能力は、化け物だから。ただ、いじわるもほどほどにね」
「もしかして、シフトのこと、聞いてたの??」
俺は、小さく頷いた。
「盗み聞きは良く無いよ! フン!!」
雫ちゃんは、そのまま更衣室にある自席に座った。
「フン」って、効果音では無いのか。実際に聞くのは初めてだ。
俺は、〈バイト合格。これからよろしく〉と蜜柑にメッセージを送った。
◇
夜20時を過ぎた。
バイトが終わり、俺は帰り支度をしていた。
その際に、俺は携帯を確認したが、1件のメッセージが入っていた。
すごく、面倒なことが起きる予感がした。
俺は、面倒だと思いつつも、〈ある人〉の元へ向かうのであった。




