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珈琲を焙煎してたら恋琲になっていました  作者: エンザワ ナオキ


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第9話 面接と妹に甘いやつ

 いよいよ面接当日、午後2時。

 

 田嶋先輩の妹と蜜柑の面接の時間が迫っていた。

 今日は、田嶋先輩と雫ちゃんの3人でシフトに入っている。

 外は大雨。今日、面接は少し可哀想だ。


「つばさくん、今日面接に来る友達は、どう言う人なの??」


 雫ちゃんからの質問であった。

 俺は、簡単に「高校からの同級生で、まず人見知りをしない。誰とでも話せる、愛嬌もそれなりにある、接客業問題なし、ただ少しノリが軽すぎる、頭はあまり良くない」と説明した。


 雫ちゃんは、握り拳を顎に当てて想像していた。

 すると、店長が続けた。


「田嶋くんの妹はどんな人??」


「あぁ、彼女の名前は桃果とうか。一言で言うと恥ずかしがり屋かな。ただ、人と関わりたくない訳ではなくて、なれるとめちゃめちゃ話す、オタクだね。そして、料理はうまい。特に浦島さんと息が合いそう」


 俺と田嶋先輩が、2人の〈看板娘候補〉紹介をする。

 気がついたら、30分は話していた。

 田嶋先輩は、ほとんど妹の話をしていた。こんなに話していても全く客は来ない。

 今日はシフト4人もいるが、みんなカウンターの前の席でくつろぐ。


「こんな雨の日は、お風呂入らなくて済むね!」


 急に、雫ちゃんが訳のわからないことを言った。退屈過ぎて、頭がおかしくなったようだ。


 ――雨で客もいないで、暇である。


 ◇


 さらに時間は過ぎて30分が経ち、2時間お店が閉まる。

 喫茶『alive』は、基本8時から15時、17時から20時までの営業時間だ。

 

 しばらくしたら、お店の扉が開いた。

 最初に面接予定の桃果さんが、片手に傘を持ちながら、店内に入った。

 

「初めまして、田嶋たじま 桃果とうか」です。今日はよろしくお願いします!」


 桃果さんは、深々とお辞儀をした。そしてその瞬間、肩にかけていたバッグが地面に落ちた。

 その衝撃で、カバンの中身が散らかってしまった。

 俺は、1番近くに居たので、取るのを手伝おうとすると、2冊の本があった。

 

 ――〈人と打ち解けられる魔法の言葉10000選〉と、これは……〈面接で受ける言葉10000選〉??


 ――いやいや、2冊合わせて20000も学習できるの……っというか、そんなに覚えられないでしょ、絶対に被っているでしょ!


 と思いつつ、本を「何も観てないよ、俺はね」桃果さんに渡した。

 

「あわ」


 ――泡??


「あ、あ、りがとうございましゅ」


 桃果さんは、思いっきり噛んだ。

 

 本を渡して、カウンターの席に戻る。

 すると田嶋先輩が、小声で俺と雫に話しかける。


「桃果は、アドリブに弱いんだよ、ただ、覚えたセリフとかは完璧にこなせるんだ」


 それが正しければ、〈あの本〉は、彼女にとって適正なのかもしれない。

 お辞儀に関しても、綺麗な45度だった気がする。


 ◇


 桃果さんの面談が始まり、10分が経過した。

 ジロジロ見るのも迷惑かと思い、面接は店長と雫ちゃんが担当。俺と田嶋先輩は、更衣室で待機していた。


「おいおいおい! 桃果、大丈夫かな??」


「田嶋先輩、落ち着いてください」


「面接、緊張してないかな??」


 もうずっと心配している。もしシフトが被って、お客さんにダル絡みとかされたら、殴りかからないかが心配である。


 ――店長には、受かったらシフト被らないように調査して下さいと言おう……


 すると、更衣室のドアが空き、雫ちゃんが声をかけた。


「はい、終わりましたよ」


 面接は無事に終わったようだ。


 結果は〈合格〉みたいだ。


 俺と田嶋先輩は店に出る。


「桃果ちゃん、海外で料理するのが夢なんだって! 私も夢だったから、話し合っちゃって!」


「こ、この店の料理、すごく美味しかったので……まさか、浦島先輩が全て考えてたなんて、思わなかったです」


「全てじゃないぞー? うちの1番人気はカルボナーラ! これは、店長が考えたんだぞ!」


 あの3人、完全に仲良くなっている。

 田嶋先輩も、桃果の頭をポンポンと叩き、労っていた。

 すると、桃果ちゃんがこちらに向かって来た。


「あ、あの、さっきはありがとうございました、受かったので、よろしくお願いします……」


 俺も「よろしくね」と伝え、桃果ちゃんは改めてみんなに挨拶をして、帰宅して行った。


「どうだった?? うちの妹! 可愛いでしょ!」


 田嶋先輩のテンションが高い。

 だる絡みをずっとされている気分である。


「店長、2人のシフトは被らないようにして下さいね」


「浦島さん? なぜそんなこと言うの?」


「仕事が手につかなくなりますよ??」


「そんなことないよね?? つばさ!!」


 俺は「雫ちゃんと同じこと考えていました」と田嶋先輩に伝えた。田嶋先輩は、ショックを隠しきれない様子。

 

 しかし、田嶋先輩の意見も少し反映した結果、最初は週1回で渋々同意したのであった。

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