#5
一抹の恥ずかしさを覚えながらも、ノートから切り離した絵を男の子に手渡します。
筆跡のひとつひとつを食い入るように見つめる、黒真珠のような瞳。それから彼は、キラキラとした声色でこう言ったのです。
「うん、こんな絵を描いてほしくてたまらなかったんだ。君、人間にしてはなかなかちゃんとしたヤツだね。良いセンスしてるよ」
生まれてはじめて絵を褒められた僕は、あの日を堺にすっかりのぼせ上がってしまって、今でも、気が向いた時に木の絵を描いています。
ちなみに彼とは、以来一度も会っていません。だけど、構わないのです。なぜって、僕は木々の気持ちが分かるようになったのだから。木々と会話できるようになったのだから。
自然界と密に交われるようになったこの得難い感覚、事細かに説明できたら大変素晴らしいのですが、生憎今の僕は、それに足る表現力を持ち合わせていません。
だけど、この充足感は、(もしあなたがそう望むなら)お裾分けしてあげたいくらいです。
いつかあなたが、深い山や森のなかを歩くことがあったら、あるいは果樹園を訪れる機会があったら、周囲の景色や現象を、じっと観察してみてください。そして、お気に入りの木を見つけて、その幹や枝葉に、そっと触れてみてください。
その時、木の精霊であるおかしな子供がそばへ来て、へんてこなお願いごとをしてきても、どうか、世の大人たちがそうするように、頭ごなしに否定したり、適当にあしらったりせず、真心を胸に接してあげてほしいのです。
そうしたら、真摯に向き合ってくれる人間と出会ったその木は、どんなに喜ぶか知れません。
ー完ー




