#4
すると、彼はこう答えました。
「そんなこと、かまやしないよ。いいから僕の絵を描いて」
(ったく、面倒くさいな)
僕は小さく舌打ちしてから頭を掻くと、おっかなびっくりとした手つきで、男の子の顔の輪郭を描き始めました。
「違う、違う! これは本当の僕じゃない。君と話すために人間の姿を借りただけだよ。本当の僕はこっち。そんなことくらい分かりそうなものだけどなぁ」
男の子は、背後のブルーベリーの株を親指で指し示しました。
(こいつ、大人をおちょくってやがるな)
ムッとした僕は、先の考えを、すなわち、男の子が人外の存在だという直感的推察を、即座に撤回したのでした。
こいつはきっと、夏休みで暇を持て余して、朝っぱらから人様の農園に忍び込んできた近所のガキンチョに違いない、と。
「なるほど、なるほど、君は木なんだな。分かった、理解したよ。それじゃ、ひとつだけ質問させてくれ。君たち木は、なんのために生きているんだい? それをきちんと理解してからじゃないと、ちゃんとした絵は描けないものでね」
男の子は、キョトンとした表情で目をぱちくりさせると、さも当たり前といった風に、こう答えたのでした。
「決まってるじゃないか、踊るためだよ。そんなの見れば分かるだろ? 君は違うの?」
カマをかけて揚げ足のひとつでも取ってやろうと企んでいた僕は、その返答を受けて、不意打ちを食らったように驚いてしまいました。
おいそれとは受け入れられない話でしたが、確かにこの子は木の精霊なのかもしれない、とひとまず心を入れ替え、素直に信じてみようと思ったのです。
「分かった、描くよ。ただし一枚だけだぞ」
僕は立ち上がって、男の子の背後にあるブルーベリーの株を丁寧に観察しました。
(この主軸枝は、数年前は小さな新芽だった。よくぞここまで成長したものだ。この辺の込み入っている部分は、枝という枝が太陽光に向かって一心に伸びた表れだろう。それにしても、大した生命力だなぁ)
ブルーベリーの株の奔放なダンスを想像しながら、まずはノートの真ん中に横線を一本引いて、その上下に、グネグネ、ウネウネとした枝や根を、勢いよく描き込んでいきます。
ほどなくして出来上がった絵は、自分でもびっくりするほどに上出来でした。
湾曲した線のひとつひとつが、ダンスの痕跡を伸び伸びと表現できているように思えました。
次回へ続く




