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ショートショート 〜夢で泳ぐ〜

ショート・ショート 夢で泳ぐ〜サイレント・レボリューション

作者: 美玲



皆さん、こんにちは。

私は佐藤と申します。

今年117歳になります。

随分と歳をとっているでしょう。

そう、私は日本で最高齢なんですよ。

まぁ歳をとってますけどね。頭はそれなりにしっかりしていますよ、おかげさまで。

今日は皆さんにお話ししたいことがありまして。

まぁ、もうわかってると思いますけどね。

一人で勝手にしゃべらせてもらいますね。

私のつまらない話聞きたくなかったら、どうぞお帰り下さって結構ですよ。

時間は有限、一秒たりとも無駄にはできませんものね。

最近そう思うんですよ。ほんとに。

では続けましょうか。

さて、頭はそれなりにしっかりしてるとは言え、いろいろ忘れっぽいことも事実でして。

どこからお話ししましょうかね。

あぁ、そうそう。

とりあえず今いる場所をお伝えしましょう。

ここは国の博物館です。

絶滅した動物やら植物やら、そうそう昔、恐竜っていましたでしょう。

ああいったものを展示してるんですね。

人気がありますよね、やっぱり。

まぁ、そりゃそうですよね、今まで生きてたのに、いつの間にか地球からいなくなってしまうんですもの。

そしてその姿はもうこういった所でしか見れないとなったら、興味も湧くというものでしょう。

私が今日ここにいるのはなぜかと言うと、それは下見をしに来たんです。

なぜ下見をしにきたかと言うと…いやそれはちょっと後でお話ししましょうか。

それよりも、ちょっと昔話につきあってくれませんか?

えぇ、えぇ、年寄りの長話につきあうのかって?

はは…、言いたいことはわかりますよ。

でも、ぜひ聞いてくださいませんか?

そうすれば私がここにいる理由もわかりますから。

皆さんもだいぶ昔の話なので忘れてしまってるかもしれませんし…。

ちなみに今は西暦33X X年です。

ですので、私がこれからお話しすることは、もう1300年以上前のことになりますかね。

こんなことがあったんですよ。

ちょっと待ってくださいね、だいぶ昔の歴史だから。

そうそう、ここの博物館にちょうど良い資料がありました。

それを見ながらを説明しましょう。

ではお話ししますね。

ここ日本でこんな出来事があったんです。

日本は当時大きな戦争して大変な打撃を受けました。

多くの人が犠牲になりました。

ですが、国民一丸となって頑張った結果、見事な復興を果たし、経済はうなぎのぼりに発展していった時期があったんです。

話は前後しますが、子供もたくさん生まれました。

この世代の人たちは、団塊の世代と呼ばれました。

そしてその人たちが大人になって子供を産んで、その子供たちは団塊ジュニアと言われるようになりました。

日本においては、この時代二つの大きな人口の波があったんです。

ピーク時には、小さな島国におよそ1億3000万人ほどの日本人が住んでいたのです。

ですが、どうでしょう?

残念なことに、この団塊ジュニアと呼ばれる人たちが社会にでた時、日本はとてもとても厳しい状況になっていました。

何が厳しいって、戦争ではありません。

経済が悪くなったんです。

彼らの世代は氷河期世代、あるいは超氷河期世代などと言われました。

就職も難しく、フリーターや派遣社員で働く人がたくさんいました。

彼らになかなかチャンスは巡ってこなかった。

チャンスだと思ってチャレンジしてもうまくいかなかった。

彼らに這い上がるチャンスはそう多くはなかった。

彼らは鬱々とした気持ちで底辺をさまよっていました。

そして悲しいことに、それを見て見ぬふりして、やり過ごす人たちもいたんです。

そうするとどうなるかわかりますか?

どうなったかわかりますか?

彼らは無気力になったんです。

彼らは無力感に支配されてしまったんです。

本来人間は、自分が自分の支配者であるべきなのに…。

わかりますでしょう?

無力感に苛まれた人たちの行く末が?

人間は希望があるから生きていけるんです。

頑張れば…少しでも頑張って、その頑張った結果が得られれば、あともう少し頑張ってみようってなるんですよ。

でもどうでしょう?

時代がそれを許してくれなかった。

そうはさせなかった。

そうなるとだんだんチャレンジする気力は失われていく…。

無力感と無気力は悪しき兄弟です。

そこで一体どんなことが起こったと思いますか?

…人口が減っていたんです。

彼らが成長して大人になって、結婚して家庭を持って、子供を育てて…。

もちろん、人にはいろんな人生があるので、結婚が全てではないし、家庭を持つことも、子供を産むことが全てではありません。

幸せの一つの形態に過ぎないにせよ、長きに渡り人々が営んできたその一形態でさえ、持つことが難しい、あるいは持っても維持したり、拡大することご難しい…。

そんな状況があったのです。

それだけが原因ではありません。

ですが、日本の人口は減っていきました。

お偉いさんちたちは頑張ったみたいですけど…。

無駄でした…。

人口はどんどん減っていき…





ついに私一人になってしまいました…。

…そうなんです。

私…この世に存在する最後の日本人なんです。

あぁ、でもご心配には及びません。

科学技術の進歩と言いうのは素晴らしいもので、遺伝子操作によって日本人は作られています。

ただなんと言ったらいいでしょう?

いわゆる純粋な?という言葉が正しいかどうかは分かりませんが、そういった操作されていない日本人は、私一人だけになってしまったんです。

悲しいですよね…。

でも仕方ありません、なるべくしてなった現実ですもの。

起こるべくして起こった現実です。

皆さんはご存知でしょうか?

氷河期世代と呼ばれた人たちが起こした、あるいはもたらした現象を何と言うか?

歴史の教科書を見ますとね…

サイレント・レボリューションと書かれています。

そう、サイレント・レボリューションです。

国会議事堂や首相官邸に集まってワーワー言って何万、何十万人が集まってデモをするとか、そういうことではないんです。

彼らは無気力と無力感を武器に、無言の圧力でこの国を滅ぼすことを密かに決めたんです。

誰に言われたわけでも、誰かと結託したわけでもないんですよ。

でも結果的にそうなったんです。

だってそうでしょう?

今日、明日の希望を持てない人が、自分が死んだ後の日本がどうなろうと知ったこっちゃないですよね。

人口が減ろうが知ったこっちゃないですよね。

私がたった一人になることなんて知ったこっちゃないですよね⁈

彼らはそうやって無言のうちにこの国を呪ったんです。

でも私はね、彼らが悪いとは思っていませんよ。

だって彼らを救い上げるチャンスはいくらでもあったはずでしょうから。

うまくいかないのなら、うまくいくまで、何度でも、何度でも、彼らが這い上がるまで、手を差し伸べてあげればよかったんですから…。

ある意味、自業自得です…

あぁ、つい話が長くなってしまいました。

年寄りはこれだから困りますね。

もうこの辺で終わりにしましょう。

あ、でもまだ私がここに来た目的まだ言ってませんでしたね。

それだけはお伝えしましょうか。

先ほど申し上げたように私は最後の日本人、私はそう申し上げましたね。

ですので、私が亡くなったあかつきには、日本人は絶滅したということで、私はここに展示されるということなんですよ!

そういうことで、私、自分がどんなふうに展示されるのかなと思って、下見に来ているんです。

この後、博物館の職員の方にお会いして、どんな感じで展示してくれるのか聞くことになっているんですよ!

できれば格好よく飾って欲しいですもんね‼︎

あー、でも残念なことが一つあります。

よぼよぼのおじいさんなので、若くて格好よかった頃の自分を展示できないのが心残りですね。

まぁ、今まで生きてきたから最後の日本人になったわけで、贅沢は言えませんが…。

さぁさぁ、これで年寄りの長話を終わりにしましょう。

次にお会いするときは、もしかするとこの博物館の展示室かもしれませんね。

その時まで、どうかお元気で‼︎





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