夜会にて4
「宝石…?」
「あら、嫌ですわ。知っていらっしゃるでしょう?貴方の襟についている宝石のことですわ」
そう、その宝石は間違いなくローザのものだった。
正しくはバルツ領の宝石だった。
「わたくし、この前メイドに頼んで宝石を処分しましたの。噂になっているようですからご存知かしら?」
「それが、この襟飾りとどのような関係が?」
「聞こえていたかしら。わたくしはその宝石を処分したのです」
そう。ここにあってはいけないのだ。
「仕立て屋がどこで材料を揃えるかは流石に私も分かりかねます」
男は苛立ってきているようだ。
「それに、あなたのものだったという証拠はないでしょう?」
ローザは男からゆっくりと手を離し、扇子で笑いを隠した。
―――このわたくしが宝石を見間違えるはずないじゃないの。
「そう。どうでもよろしいけれど、ただ、あなた覚悟を持ってそれをつけていらっしゃるの?」
「は?」
「知らないことほど恐ろしいものはなくてよ。それは、巡り巡ってわたくしのもとへ還るはずだったもの」
男は不思議そうにローザの顔を見る。言葉の意味を理解していないのだろう。まあ、そんなことはどうでもいい。処分したはずの宝石を使われたのだ。許しがたい。
「泥棒ですわ」
ローザはきっぱりと言った。