糸
窓を開けると快晴が広がっていた。
洗濯物を干すために開けただけなのに、ココロがすっと軽くなったような気がした。
昨日までずっと今日の試験の結果が頭を悩ませていたからだろう。
「やるか」と一言呟いて私は洗濯物をハンガーに掛け始めた。
全ての洗濯物をかけ終えて部屋に戻ろうとしたときに、軒下に蜘蛛の巣があるのが見えた。
蜘蛛の巣から伸びた1本の糸がキラキラと日差しを浴びて踊っていた。
蜘蛛の糸を眺めていると少し元気が湧いてきた。
将来への不安は手を動かしていると薄れていく。
しかし、ふとした瞬間に虚無が訪れるときがある。
その虚無をこの小さく細い蜘蛛の糸がほどいてくれた、そんな気がした。
タイミングもあったのであろう。
ずっと気分を塞がせてきた自分の進路の問題は今日一段落したのだ。
今日はとことんのんびりしよう、そう思いながら部屋に帰った。
部屋に入り、のんびりテレビを見ていて気づいたらお昼ご飯の時間だった。
パパッとご飯を済ませ、昼寝をしようとうとうとしながらベッドに入り、今までの人生、将来について考え始めた。
某有名私立高校に入り、某国公立大学に今日入学することが出来た。
親も友達も喜んでくれた。
なにより、私が希望していた将来をそのまま実現できると言うことが一番嬉しかった。
ふと携帯が鳴り電話に出ると、友達のTだった。
Tも進路が決まったという報告で電話をしてきたのだ。
Tは大学に行くのではなく、専門学校に行くというのだ。
看護師の資格が欲しくて、大学に行くよりもお金が安く早く働ける専門学校にした。
早く働けるのが嬉しいとTは携帯の奥で笑っていた。
友達の事ながら私も嬉しい気持ちになった。
その後Tとはまたご飯に行こうと約束をして電話を切った。
その後また考え事をしていた。
ふと私が今まで行きたいと思っていた進路や人生とTの人生はかなり違うなと思った。
私は良い大学に入り、その後良い企業に入るためにまた努力をしていくだろう。
Tは資格を持ち自分のしたい職種に就くだろう。
一見同じように見えて、また私の方が選択肢が多く自由に見えるが、本当にそうなのだろうか。
私が持っている価値観、考えは親やその他の大人の影響を強く受けている。
私の周りの大人が高学歴を重視しているため、そういう価値観を持って成長してきた。
もっと言うなれば私が持っている考えや価値観は誰かの手によって作られた者で、そういう意味では私はTよりも遥かに自由がないのではないだろうか。
そんなことをしばらく考えていると、眠気は収まり、また日も暮れてきた。
洗濯物を取り込もうと窓を開けると、蜘蛛の糸はまだそこにあった。
先ほどはあんなに綺麗に見えた蜘蛛の糸が、今はただ自分の周りに絡みつくしがらみに見えて目をそらした。




