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97.残された者たちは

 白昼堂々行われた邪教徒3人による暴動は、僕たちの手によって鎮圧された。


 幸いなことに、市民に死亡者はいなく、何人かが怪我をしただけで済んだようだ。駆けつけるのが遅かったら……と思うと、背中に鳥肌が立つ。


 それもこれも、素早くミハイルさんが僕たちに伝達をしてくれたからだ。彼は僕たちを呼んだ後、市民たちの避難に尽力した。


 そして、クリスさんが邪教徒たちを足止めしてくれたのも、被害を減らす原因となった。彼がいなければ、ミハイルさんが僕たちを呼ぶこともできなかっただろう。


 しかし――そんなクリスさんはもうこの世にはいない。



「ただいまより、クリストフ・ダンフォートの葬儀を始めます」


 鎮圧から三日。神父さんがクリスさんのお葬式を宣言する。


 僕は彼の棺桶を見つめて押し黙っていた。


 クリスさんはーー死んでいた。


 アルベールとセシルが現場を見つけたという。彼の遺体は刃物で切り裂かれていて、目も当てられないほどだったらしい。


 彼は市民を守るためにネクロスに立ち向かい、殉職したのだ。


 彼と出会って、僕は二日しか会話をしていない。ミハイルさんと比べれば、一緒にいた期間はずっと短い。だけど、もう彼の笑顔を見ることができないと思うと、心が痛くなった。


「本日は夫の葬儀に来ていただいてありがとうございます……」


 クリスさんの奥さんと、娘さんが前に出る。平静とした様子だが、取り繕っているのは誰の目で見てもわかる。今にも爆発してしまいそうだ。


 葬儀は一日中続いた。クリスさんはそのまま遺体を焼かれ、お墓に埋葬された。墓石には名前が刻まれて、彼は静かな丘で眠りについた。



 夕方になって葬儀が終わると……会場にミハイルさんの姿がなくなっているのに気づいた。僕は近くにいたエリーに話を聞いてみる。


「きっと、『冥世の門』にいるよ」


「冥世の門?」


「うん。現世と冥世をつなぐ、大きな門」


 僕はエリーの後について、門があるという場所まで歩き出した。



 冥世の門。ドグランズの西の丘の上に聳え立つ、くすんだ鈍色の大きな両開きの扉だ。


 全長は10メートルほどで、なぜか全体を鎖で巻かれているような彫刻が施されている。


 古来の文献には『冥世と現世を繋いでいる』『その門を開いたとき、二つの世界が繋がる』という記述があるが、事実は定かではない。


 200年ほど前に、国王によって門の撤去が提案されたが、工事に関わった人間は原因不明の死を遂げ、ついには国王までも病死してしまった。


 それから、この門は撤去されることなく静かに街の郊外にそびえたっている。


 日が落ちた頃。ミハイルはそんな冥世の門の前に一人、佇んでいた。


「……人生とはわからないものだな」


 ぼそりとつぶやく。不思議と、涙は出ていない。ミハイルはそんな自分が不思議なくらいだった。


 同僚のクリスの死。ショックでないはずがなかった。もう10年以上も連れ添った仲なのだ。もはや彼がいないこれからの人生など、想像もできない。


 なんとなく、冥世の門に触れる。手のひらに冷たい感触があった。


 この門の先にクリスがいるのだろうか。いたのなら、彼は自分のことを見ているのだろうか。ウジウジとしている自分を見て、笑うのだろうか。


 考えても答えは出ない。出るはずもない。


 だが、ミハイルはただ門に手のひらの熱を奪われながら考えることしかできなかった。


「娘が結婚するまでは死なないと、言ったではないか」


 やるせない気持ちを言葉にして吐き出す。本当は叫びたくて仕方なかったが、それだけは堪えた。


 自分は未熟だ。兵士になって強くなってた気でいただけだったのだ。


 そんな簡単なことに気づくのに、大事な同僚を一人失わないければいけないなんて――。


「……クリス。私は生きるぞ。お前の分まで」


 ミハイルは分かっていた。どれだけ嘆いてもクリスが帰ってくるわけではないと。彼の死を乗り越えて、市民のために生きなければならないと。


「クリス。私は強くなる。市民を一人でも多く守ってみせる。だから――そこで見ていてくれ」


 ミハイルは門に背を向けて歩き出す。彼の背中には覚悟が背負われていた。


「あ! ミハイルさん!」


 その時、向こうからルカとエリーがやってくる。


 ミハイルは振り返って門を一瞥すると、ルカたちの方へと足を進めた。

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