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78.剣と人が手を取って

 夜風にあたりながら、アルベールは空を見上げていた。


 そこはカシクマが作り出した空間であったが、アルベールを感傷に浸らせるには十分であった。冷たい風が吹く丘の上で彼は一人、隣に真っ二つになったレイを置いて座り込む。


「これからをどう生きていくか、か……」


 そんな彼の心の中には、ルカの言葉が渦巻いていた。


 アルベールはこれまで、たくさんの人を傷つけてきた。吸血鬼への復讐に人生を費やしてきたため、他人を省みない行動も数えきれないほどだ。失ったものも多い。


 そんな人間が、未来に希望を持って生きていくことが許されるのだろうか。彼の頭の中はずっとそんな問いかけを続けている。


「……お体に障りますよ」


 その時だった。一人の少女が自分の隣に立っていることに気付く。そこにいたのは、黒髪の、メイド服の少女だった。


「なんだお前は?」


「そんなこと、どうだっていいじゃありませんか。それより、こんなところにいると風邪をひいてしまいますよ」


「……ほっといてくれ」


「では、(わたくし)もご一緒させていただきますね」


 どこからともなく現れた少女は、真っ黒な瞳でじっとアルベールを見つめると、同じように地べたに座った。


「おい」


「私のことは気にしないでください。それより、何か考え事をしていたんでしょう?」


 少女に話をはぐらかされ、アルベールは舌打ちをした。再び悩みごとに集中しようとするが、どうにも少女が気になってしまう。


「……ああ、もういい。考えるのも面倒だ」


「そうですか。では、部屋に戻って温まりましょう」


「それは、まだいい。しばらくこうしていたい」


「おかしなことをおっしゃるんですね。まるで自分に罰を与えているようではありませんか」


「……与えてるんだよ」


 今までの自分の行いを、ルカは許してしまった。それでも、アルベール自身は自分を許せないままだった。せめて風邪でもひいてしまいたいと思っていたところだ。


「どうしてそんなことをするんです?」


「……お前には関係ない」


 アルベールは、自分の心の中にずけずけと踏み込んでくる少女をうっとうしく思っていた。初対面で、誰だかもわからないのに、心を見透かされている気分だ。


「……あなたは、自分のことを誤解しているのではないですか」


「誤解だと……?」


「ええ。あなたは、あなたが思うほど、悪い人間ではありませんよ」


「そんなわけがあるか……お前に何がわかる!」


 アルベールは苛立ちを爆発させた。メイド服の少女は怒鳴りつけられると、静かにほほ笑んだ。


「恐れています」


「何をだ」


「あなたは怒っているのではありません。私が――人が近くにいるのを怖がっているだけです」


 「違う」という言葉は、喉の奥でつっかえてしまった。否定しようとする前に、アルベールは自身でそれを認めてしまったからだ。


「……ああそうだ。怖い。これ以上、俺みたいな人間のために誰かを傷つけてしまいそうで、嫌なんだ」


 それは、アルベールにとって初めての吐露だった。どうして初対面の相手にそんな言葉が出てきたのかはわからない。彼自身が驚くほど、それは気持ちに忠実だった。


 メイド服の少女はコクリと頷くと、真剣なまなざしでその言葉を受け止めた。


「大丈夫です。あなたなら」


「どうしてそんなことが言える……?」


「あなたが悪い人間だったら、どうしてあなたの両親は、あなたに未来を託すようなことをしたんだと思いますか? あなたの友人は、武器は、どうしてあなたのために動いたのでしょう?」


 それは、初対面の少女では知りえないことだった。しかし、アルベールには、そんなことは気にならないほど、少女の問いかけが心に突き刺さっていた。


「……わかってる。そんなこと、俺だってわかってる! でも、怖いものは怖いだろ……!!」


 その時、アルベールは頭に優しい感触を覚える。少女が柔らかい手で頭を撫でていたのだ。


「きっと大丈夫ですよ。あなたは、誰かのために強くなれる人間です。あなたの人生は、これからです」


 その言葉は、感触は、なぜか懐かしさを感じさせるものだった。


 ――否、アルベールは、その理由に気が付いていた。


「お母さまとの約束、ちゃんとお守りくださいね。それから、自分のことを大事にしてください」


「ああ。絶対だ。その代わり、お前もこれから、俺のそばでそれを見届けろ」


 気が付くと、メイド服の少女はどこにもいなくなっていた。代わりに、風の音が『かしこまりました』と言っているように聞こえた。


「……帰ろうか、レイ」


 アルベールは二つに分かれた大剣を抱え、扉の方へと向かう。


 少年は剣に語り掛ける。


 一度目は、復讐のため。家族を殺した憎き吸血鬼を滅ぼし、失った心のかけらを埋め合わせるために。


 二度目は、約束のため。自分のことを信じてくれた人と手を取り、未来の道を歩むために。


「レイ。俺に力を貸してくれ」

第二章を全部読んでくださってありがとうございました!

次回から第三章です。更新ペースが下がるかもしれませんが、これからも続けるので、続きもお楽しみに!!

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