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23.墓所の王

今回は緋色の不死鳥と灰色の熊のお話です。

 ルカたちが常闇の洞窟から出る一時間前。クノッサスの街から南東に進んだところに位置する王墓で、S級冒険者パーティたちが調査を行っていた。


「はっ、楽勝じゃねえか!」


 S級パーティの一つ、緋色の不死鳥スカーレット・フェニックスもまた、アンデッドモンスターを倒しながら王墓の奥へ奥へと進んでいた。


「ウガアアアアア……」


 地下二階。迷路のように入り組んだ廊下(るか)の角を曲がり、ミイラ男がフラフラとした足取りで向かってくる。


「その程度の速度で、俺に追いつけると思うな!」


 ルシウスは腰に差した両手剣を引き抜き、危なげもなくミイラ男を袈裟斬(けさぎ)り。肩からざっくりと刃を入れられたミイラ男は、なすすべもなく床に倒れ、動かなくなる。


「<セイクリア>!」


 すかさずセシルがミイラ男に神聖魔法(しんせいまほう)をかけ、浄化させる。ミイラ男は白い光に包まれて灰になった。


「楽勝楽勝! 数はちっと多いが、雑魚ばっかりだぜ」


 ルシウスは他のメンバーたちと笑いながら話すが、セシルはむっとした顔をしていた。


「なんだよセシル。まだ怒ってるのかよ?」


「当たり前でしょ。緊急クエストにかこつけて、結局私の時間を(うば)ったじゃない」


「そう怒んなって、緊急なんだからしかたないだろ?」


「そんなの名目(めいもく)ではでしょ。あなたは街で暮らす人のためにクエストを受けたわけじゃない。パーティの名声のため」


 緊急クエストとは、著しく市民の生活に支障(ししょう)をきたす可能性があるクエストのことだ。


 アンデッドモンスターは墓所(ぼしょ)などに定期的に湧くモンスターであるが、なぜかここ数日、この王墓からだけは他とは比にならないほどのアンデッドモンスターが発生したのだ。


 緊急クエストは、参加すれば他のクエストよりもやや冒険者ランキング順位に関わる点数が多めに加算されることとなっている。今回のクエストも例外ではない。だからS級パーティはこぞって参加したわけだ。


「なんだ、お前らかよ」


 その時、廊下を進む緋色の不死鳥スカーレット・フェニックスに、誰かが声をかける。


 屈強な体躯(たいく)、そして特徴的な顎髭(あごひげ)。声の主は灰色の熊(グレイベアー)のヴェルディだった。後ろにはパーティのメンバーも連れている。


「何の用だ?」


「そう警戒すんなって。たまたまそこを通りかかっただけだよ。ここ入り組んでるだろ?」


 同じS級冒険者パーティであり、自分よりもランキング順位が高い2位の灰色の熊(グレイベアー)。そのリーダーのヴェルディが現れたことは、ルシウスに緊張感を走らせた。普段からライバル視している相手なので当然だ。


 しかし、ルシウスはそれを悟られないよう、あくまで無表情を(つらぬ)いた。


「それにしても……思ったより楽勝なクエストだったな。出てくるのは雑魚アンデッドモンスターばっかりだ」


「そうだな。この程度ならA級、いやB級でも楽勝だっただろうな」


 気さくに話しかけてくるヴェルディに対し、ルシウスはなるべく無表情を演じながら答える。その時、セシルが足を止めて声を上げた。


「ねえ見て、あれ!」


 セシルが指した方向は、廊下の他の部分と変わらない、なんの変哲(へんてつ)もないレンガ造りの壁だった。


「なんだセシル? 階段でも見つけたのか?」


「違うの! よく見て!」


 ルシウスとヴェルディは、言われた通り目を凝らす。すると、レンガのつなぎ目にうっすらと光が見える。壁の向こう側から光が差し込んでいるのだ。


「これは……隠し通路か?」


「でしょうね。おそらくこの壁の向こう側に空間があるの」


「でかしたぞセシル! アンデッドの大量発生の理由がわかれば貢献度(こうけんど)も高くなるはずだ!」


 ルシウスは歓喜(かんき)し、両手剣で壁を破壊する。すると、セシルの読み通り、その先は開けた空間になっていた。30メートル四方ほどの大きな空間で、部屋の奥には祭壇(さいだん)のようなものがある。


「なんだここ……? 変な感じだな」


「おいヴェルディ。俺たちの手柄だ、ずけずけと中に入ろうとすんじゃねえよ」


「わかってるよ。手柄(てがら)を横取りするほど俺たちだって焦ってるわけじゃない」


 ルシウスは(にら)みを利かせながら、部屋の中へと足を踏み入れる。それに続いて、セシルや他のメンバーたちも隠し部屋へと足を踏み入れる。


「貴様らか……我が安息の地に土足で踏み入る愚か者は……」


 その時、部屋の中に低く唸るような声が響く。祭壇に、一人の男が立っているのだ。


「誰だ!?」


「我が名はエルドレイン……この墳墓の主である」


 祭壇から降りてきたのは、黒いローブに身を包んだ男。背丈はルシウスと変わらない中肉中背ほどだが、彼の声は腹の底で響くように低く、体からは黒いオーラを放っている。


 フードを取り外すと、男は40代ほどの顔立ちに反して、老人のような真っ白な髪を生やしていた。目つきは鋭く、見ているだけでその場の誰もが威圧感を(いだ)いた。


 エルドレインと名乗る男は、ゆっくりと階段を降りていく。一段降りるごとに、部屋の空気が重くなるのを誰もが感じた。


「おい不審者! アンデッドモンスターが増えてるのはお前の仕業か!?」


「言葉を(つつし)め、侵入者(しんにゅうしゃ)よ……」


 エルドレインに問いかけた瞬間、ルシウスは体が重くなるのを感じた。まるで上から巨大な手に押しつぶされているようだ。


「なん……だ……これ!?」


「ルシウス! どうした!」


 ヴェルディは焦って聞くが、ルシウスは息をするのがやっとなほどだ。押しつぶされそうになりながら、地面に手をついている。


「<治癒(ヒール)>!」


 すかさず緋色の不死鳥スカーレット・フェニックス癒術士(ヒーラー)が回復魔法をかける。ルシウスは嗚咽(おえつ)しながらも、やっとのことで立ちあがれるようになった。


「さしずめ我が墳墓を荒らしにでも来たんだろうが……容赦するつもりはないぞ?」


 そう言うと、エルドレインの手に紫色の一本の杖が現れる。


「<サーヴァント・クリエイション>。まずは小手調(こてしら)べと行こうではないか」


 エルドレインが杖を振るうと、次の瞬間、部屋の床に大きな魔法陣が現れ、まるで亡者(もうじゃ)が這い上がってくるようにしてモンスターたちが次々と湧き出てくる。


「なんだよこれ!? 今まで見てきたモンスターとは比べものにならねえぞ!!」


 ルシウスは恐怖して叫んだ。セシルはこの状況を見て、下唇を噛む。


「さて、せいぜい楽しませてくれよ?」

ここまで読んでくださってありがとうございました!


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