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11.冒険者ギルド

 ルシウスとの因縁(いんねん)の戦いが終わってギルドに到着し、クエストの依頼書が張り出されている掲示板の前に立つ。黒板のような大きな板に、びっしりと白い紙が張り出されている。これがクエストだ。


「ルカさん! これはどうですか? 報酬金(ほうしゅうきん)100万ギルですって!」


 リーシャが意気揚々(いきようよう)と持ってきた依頼書は、『エルダリードラゴン討伐(とうばつ)』。紙の真ん中にはでかでかと地を()うドラゴンの絵がかかれている。


「残念だけど、こういうクエストは受けられないんだ」


「なんでですか? ルカさんならいけますって!」


 冒険者にはランクがある。基本はA~Fの6段階で、初心者の冒険者はFからスタート。S級の冒険者というのはA級の上に位置する特別なランクで、A級の中でもずば抜けた冒険者しかなることはできない。


 ルシウスとセシルはS級冒険者だ。二人の実力はギルドの中でもずば抜けていて、S級冒険者は2人を含めて13人しかいない。数百人規模のギルドでなので、それだけ特例中の特例ってわけだ。


 ちなみに僕は最底辺のFランク。まあこれまで荷物持ちだったし、当たり前だよね。


 冒険者が受けられるクエストは、自分のランク以下のものだけだ。A級冒険者はA級以下のクエストすべて、F級の冒険者はF級のクエストのみ。実力不相応(じつりょくふそうおう)のクエストを受けて死者が出るのは、ギルドからしても避けたいんだろう。合理的な制度だと思う。


 『エルダリードラゴン討伐』はS級のクエスト。だからセシルやルシウスのようなS級冒険者がいるパーティでなければ受けることはできない。僕なんかもってのほかだ。


 リーシャにそのことを説明すると、彼女はプクっと頬を膨らせて、納得がいかないような表情で。


「人間の世界のルールって、めんどくさいんですね。エルダリードラゴンなんて、ルカさんなら楽勝ですよ!」


 それはさすがに買いかぶりすぎだと思うが。リーシャはしぶしぶクエストの依頼書を掲示板に戻した。


「にゃっ!?」


 その時、体が押され、僕は地面に倒れた。


「いてててて……ごめんなさいにゃ」


 僕にぶつかってきたのは、猫耳を生やした少女だった茶色のショートヘアーの上に、ちょこんと耳が生えている。獣人の少女なのだろう。


「ごめんなさい! 怪我はなかった?」


 少女は「大丈夫ですにゃ」、と言って立ちあがる。


「おいお前、うちの荷物持ちに何してんだ!」


 そのとき、一人の男性の怒声が飛んでくる。


「俺たちはS級パーティだぞ? その荷物持ちに怪我させるとは、いい度胸してるじゃねえか」


 僕に詰め寄ってきているのは、S級冒険者パーティの『灰色の熊(グレイベアー)』のリーダー、ヴェルディだ。屈強な体躯(たいく)と、顎にはやした髭がトレードマークの冒険者。まさにクマのようだ。そんな彼が、(さげす)むような目で僕を見て、苛立った口調で話す。


 完全に因縁を付けられているけど……これは冒険者にとって日常茶飯事だ。ランクの序列(じょれつ)がすなわち実力の上下を表す冒険者の世界では、ランクが下の者は上の者に理不尽な目にあわされる。


「ヴェルディさん、今のはメイカがぶつかってしまったんだにゃ、この人は悪くないにゃ」


「お前は黙ってろ! 俺は今そこの黒髪野郎に言ってるんだよ!」


「人の話を聞いてくださいよ! ルカさんは悪くないです!」


「あ? 何だお前。痛い目見るか?」


 憤るリーシャの肩をポンと叩いて、僕は立ちあがる。


「すみませんでした。気を付けます」


 そして、すかさず謝った。


「……まあいい。雑魚に時間を割くのは面倒だ。次はねーぞ。よく覚えておけ」


 そう言って一枚の依頼書を掲示板からむしり取って、そそくさと歩いてカウンターの方へ行った。メイカと呼ばれた猫耳少女は、ペコリと僕に頭を下げ、黙って彼の後について行った。


「ルカさん! なんで謝るんですか! 悪いのはあいつですよ!」


「冒険者の世界ではあれが普通なんだよ。そんなに怒らないで」


「キーッ!! ムカつきます! こうなったら、なんとしてもルカさんに強くなってもらって、あいつに謝らせます!」


 そこは他人任せなのか。それに、別に僕は謝ってほしいわけじゃないんだけど。


「ルカさん! 私たちもクエストに行きましょう! 私、あいつらよりランクが高いクエスト探してきます!」


 だからF級の冒険者はF級のクエストしか受けられないんだって……。そんな僕の反論も聞かず、リーシャは怒り狂いながら掲示板の前を乱舞(らんぶ)し、依頼書を読み漁る。


 もうリーシャはあてにならないな。自分でクエストを探した方がよさそうだ。


 掲示板に張り出された依頼書を改めて一枚一枚見ていく。草むしり、落としもの探し、人探し。僕みたいなFランク冒険者が当たれるクエストは雑用みたいなものばっかりだ。


 少しすると、よさそうなクエストを発見した。


 『ゴブリン討伐』。ゴブリンを10体倒して、その耳を納品するというクエストだ。ゴブリンは森や洞窟で、群れで生活するモンスターで、数が増えると農作物を荒らしにいったり、人里を襲ったりすることがある。


 Fランクのクエストの中でも難易度は高め。そのぶん報酬もいいので、今の僕にはうってつけだろう。今回はこれを受注することにした。


「リーシャ? クエストが見つかったから行くよー」


 依頼書を手に取り、リーシャに声をかけると。


「『リヴァイアサン討伐』……これもあり。わわっ、こっちの『ベヒーモス討伐』は報酬が200万ギル!? これも持っていきましょう……」


 高難易度の依頼書を束にして持っていこうとしていた。全部戻させた。



 クエストを受注する際に、ギルドから冒険者向けに情報が開示されている掲示板を眺めてみると、見覚えのない記事が張り出されていた。


 『漆黒の烏(ブラック・レイヴン)を暫定的にS級パーティとする』というタイトルの張り紙だ。全然聞いたことのないパーティだな。S級の人たちはルシウスのように、パーティリーダーになることが多いので、新しくS級になった人がパーティを設立したのかな。


 新しくS級パーティが生まれると言うことは、1位を目指す他のS級パーティにとってはライバル出現を意味している。だから灰色の熊(グレイベアー)のヴェルディは気が立っていたんだろう。


「ルカさーん? 早く行きましょうよー!」


「ああ、うん! 今行く!」


 手が届かないS級より、今は目の前のクエストをこなすことに集中しよう。僕は掲示板から視線を移し、クエストを受注するカウンターの方へ歩き出した。

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