赤の道① 自己紹介その1
2話目入力完了、とりあえず最初の村まで毎週投稿する予定です。
第一章 珍道中赤の道 その1
三千m級の山頂から麓の村までの数時間、自己紹介しながら
の下山となったが、それぞれのペースで歩いていては間隔が
広くなり声が聞こえなくなるので、一番歩くスピードが遅い
巨漢を先頭にして隊列を組む。地面は芝生の様な ほど良い
硬さで傾斜もさほどきつくはないが、用心しながらジグザグ
に下っていく。広い斜面を下りる時は真下に向かって下るの
ではなく、斜め下に右へ左へと折り返しながら下ると膝への
負担が軽減されるのだ。
「では改めて自己紹介します。」
小男がそう言うと男達は足元を注意して歩きながら聞く。
先頭の巨漢はふぅふぅ言って歩くことに集中していて聞いて
いないかもしれないが、構わずに続ける。
「おれの名前は黄山 大助 22歳、高校を卒業後大学へは
行かずに鉄工所で働いています。」
なるほど、小柄の割には筋肉質で体格が良いのは毎日
金属の板を持ったり、金槌で叩いているからなのか。
童顔なので体とのギャップが激しい。
「へぇ~そうなんだ、そこではどんな物を作っていたん
だい?」
一番興味が無さそうなチャラ男が食いついてきた。
「オーダーされれば何でもって感じですかね、小さな工場
なので色々頼まれて作ってます。例えば看板のフレームや
朝礼台、小型の焼却炉とか…あと、おもしろい物だと鉈
とかですかね。」
「鉈!?…でござるか?」
ござる少年が驚く。普通、刃物を作る所はそれ専門の
工場で作っているからだ。
「親方が昔、包丁とかを作っていたから、工場の中に炉が
あるんです。今は外国産の安物が使い捨て感覚で買えるから
メインの仕事では無くなってしまいましたが…。」
その話を聞いてチャラ男が目を輝かせる。
「詳しく訊いて良かった!!君…黄山君は包丁を作ることが
出来るのかい?」
前から二番目を歩いていたチャラ男が期待に満ちた目で
後ろの六番目を歩いている黄山を見る。
「ええ、親方から一通りの作り方は習いました、まだ
へたくそで切れ味は保証出来ませんけどね。」
今度は三番目を歩いていた、ござる少年がソワソワしながら
話に加わる。
「ではでは刀…日本刀はどうでござるか?黄山殿は
打てるのでござるか?」
鼻息荒く立ち止まって黄山を見る。
「うーん、日本刀は作ったことが無いし、日本刀そのものを
許可無く作ってしまうと違法になってしまうので…。以前
作ろうとしたら親方に怒られました。」
そう言って黄山は あははと苦笑いして頭を掻く。
「……そうで……ござるか……。」
しょぼんとして力なく肩を落とし再び前を向いて歩き出す。
先頭の巨漢だけが、のしのしと先に行ってしまっていたが、
とても遅いのですぐに追いつく。
「じゃあ、炉と材料が有れば包丁が作れるんだね?」
と、チャラ男が確認する。
「はい、おれのへたくそな包丁で良ければ作れます。」
それを聞いて、うんうんと頷き
「OK、大丈夫だよ、この世界の包丁が使えないヤツだったら
頼むよ。」
そう言って歩きながら左手を上げてヒラヒラさせる。
「分かりました……えっと……。」
と言って言葉に詰まる黄山。
「ああ、まだ自己紹介の途中だったね、わたしの名前は
橙木 優哉、38歳料理人だよ。」
そうチャラ男…もとい、橙木が言うと
「「「「「38歳!?」」」」」
先頭の巨漢と二番目の本人以外の男達が驚いて立ち止まる。
その大声に一瞬、うん?と巨漢も振り返るが、下山する
ことに頭がいっぱいいっぱいなので、すぐに前を向いて
のしのしと歩いて行く。
「おや?意外かい?」
ニコッと笑って髪をかきあげる。もしこのメンバーの中に
女の子が居たらドキッとしていたかもしれない。
いや、男でもこれが大人の男の色気なのかとドキッとする
だろう、というか何人かはしたようだ。言動はチャラさが
有るが、黙っていればイイ男なので知らない人は騙されて
しまうだろう。
「すいません、見た目が若かったので同じ位の歳だと思って
いました。」
黄山が謝る。確かにどう見ても二十代にしか見えない若さの
顔を橙木はしている、白髪が無いのは勿論のことだが顔に
皺が殆ど無くピチピチしている。
「ふふっありがとう、若く見られるのは結構嬉しいもの
なんだね。多分、食事や健康に気をつけているからだよ。」
そう言ってまた歩き出す。
いやいやそれだけじゃないでしょ、と皆が思ったが個人の
努力でどうにかできるレベルの話ではないので
言わなかった。
世界的に見ても特に日本人は年齢よりも若く見られるが、
さらに一部年齢不詳の人達がいる。J〇…いやこれだと伏字
にならないか…某石仮面の作者とか、明らかに年齢と
見た目がかけ離れている人達だ。あくまで個人的な見解
だが、日本人は平均寿命が延びる度に若者でいられる期間も
同時に延びているのではないだろうか。それに近い話を
どこかで聞いたことがあると思いませんか?そう、エルフ
です。長命で見た目が若いなんてエルフそのものです。
多分、日本人はこのまま年齢不詳の人達が珍しくない時代に
なっていき、やがてエルフの様な存在になるのでは
ないだろうか?今はその過程なのだ。
な…なんだってー!!
と言う声が聞こえてきそうなので話を戻す。
「むう、確かに食事と健康は大事でござるな。」
とござる少年も歩き出す。
「うむ、おらも気をつけてるぞ、格闘技は体の健康状態の
良し悪しがそのまま勝敗を決めるからな。」
大男は、むんっと両腕に力こぶを作り、なぜかその態勢の
まま歩いて行く。
「肌が白いから、直射日光をあまり浴びないというのも
若さを保つのに大事なことなのかも…。白いのはぼくも
だけど。」
白い、というより青い顔をして もやし男も歩きだす。
もうすでに死にそうだ、この男は肌よりも健康そのものに
気をつけた方が良いだろう。
「若く見られるのは、おれはあまり嬉しくないですけどね。
身長のせいで中学生ぐらいに間違われて、よく補導員に
声を掛けられますからね。早く間違えられない様に
なりたいです。」
遺憾である、といった表情で歩き出す黄山。童顔なのも
間違えられる原因なのかもしれない。
「特に異世界に来た今は食事と水が大事でありますな。
健康のため若さを保つのは勿論大事でありますが、
何よりも体力を一番大切にせねばなりませぬ。
何も飲まず食わずで動けなくなったら、即、化け物のエサに
なる可能性を考慮すべきでありますからな。」
最後に直射日光を全身で浴びながらパン一少年が顎に
右手を当てて、うーん…と、どう対処すれば良いか考え
ながら歩く。
今のお前は服を着ることが一番大事だと、心の中で皆
がツッコんでパン一少年を無言でチラ見する。
皆が自分を見たので次は自分の番だと思い、
「では次は自分が自己紹介をさせていただくであります!
自分の名前は緑川 護であります!!年齢は18歳で
あります!!!」
そう言って誰も見ていないが背筋を伸ばしてビシッと
気をつけの姿勢をして敬礼をする。数秒立ち止まって敬礼
した後すぐに小走りで皆に追いつく。
「おおっ!拙者も18歳でござる、同い年がいて安心
したでござるよ。」
チラリと最後尾の緑川を見て親指をグッと立てる、緑川も
応えるように笑顔で親指をグッとする。
どうやらござる少年も18歳だったようだ。
「若っ!!制服を着ていた君は分かっていたけど……」
と言ってござる少年を見る。
「もしかして緑川君も、まだ高校生だったりする?」
歩きながら横を向いて後ろの緑川に黄山が訊いた。
「はい、来週高校を卒業予定であります。が、残念ながら
卒業式には出席出来ないかもしれません。」
笑顔だった緑川の顔が一瞬で曇る。
「ああ、異世界に飛ばされて来ちゃいましたからね。
飛ばされた瞬間に戻れるのか、滞在時間と同じだけ時間が
経過しているのか、浦島太郎のように数十年後になって
しまうのか、そもそも元の世界へ帰れるのかも分からない
ですからね。」
同じく顔を曇らせる黄山。ファンタジー世界へ来たことを
喜んではいたが、元の世界へ帰りたくない訳ではない。
「拙者も来週卒業式だったでござる、三年間共に剣の腕を
磨いてきた仲間や後輩達に、挨拶できぬのは辛い
でござるな。」
そう言ってござる少年が、またしょぼんとする。
「あ、もしかして、この肩に掛けてるのって竹刀?」
大男が前を歩くござる少年の肩にある茶色の長い筒状の袋
を指差す。
「そうでござるよ、一応剣道部の部長を務めさせて
もらっていたでござるよ。」
さっきまで肩を落としていたが今は胸を張って誇らしげだ。
少し元気が出たらしい。
「緑川殿は何か部活動をしていたでござるか?」
部活の話を緑川に振ると、彼も少し表情を明るくして
こう言った。
「自分は山岳部へ入部していたであります。本当は射撃部
等があれば良かったのでありますが、近所にそれがある
高校がありませんでしたので、体を鍛えサバイバル能力を
向上させられる山岳部へ入部したのであります。」
本当は通学に時間をかけて行けばいい話なのだが、入試で
落ちたことは内緒にした。
なにやら物騒な単語が出てきたので、すかさず大男が緑川
に問い掛ける。
「射撃部とは?」
あまり聞いたことが無い部活名だ、大男以外にも何人か
頭の上に?が浮かんでいる。
「射撃部とは光線銃や空気銃を使う競技の部活であります。
銃規制の厳しい日本でも使える安全な銃を使用している
のでありますよ。」
ふむふむと緑川の説明を聞く、知らない競技を知るのは
結構楽しいものである、……カバディとか……。
続く