神子誕生祭~約束を守る者~
本当に文章力がなくて嫌になります。
少しずつでも上手くなっていきたいです。
ご指摘ありましたらお願いします。
何だか多数の意識に体中を触られているみたい。
シャインは背筋が凍るような感覚に目を開けた。いや、目を開けた感覚がしているだけで、実際の身体はピクリとも動いていない。ただシャインの意識がいる心の奥深くでは、彼女は視るという行為に成功していた。
「ここはどこ……?」
闇の中、あるのは一つの光の球だけ。シャインが発した声も反響音が帰って来ないことから考えると相当広い空間なのだろうと彼女は想像した。歩こうとしてみても、足はまるで地に縫い留められているかのように動かない。
『混血種の第一位、フィオナ・シルファの存在を確認しました。約束の結界が破られたことを感知。これよりシャイン・ディ・クルームの意識を封印し、約束を守る者への意向を開始します』
シャインの脳裏に無機質な声が響く。そして。
「な、なんなの……?」
シャインの身体が、この空間の闇に溶けだしていく。慌てて肩を抱きしめた腕も、脚も、指先も。光の球に照らされて唯一見えていた身体が透けていくのだ。そして同時に休息に自分の身体の支配権が奪われていくのが分かった。
無機質な声は告げていた。シャインという意識は封印され、他の存在に移行するのだ、と。もちろんシャインは今まで、自分の中に異なる意識が存在するなどと違和感を覚えたことは一度もない。けれどオラシオンを捧げたあの時を契機に運命の歯車は回り始め、シャインに隠されていた何かが動き出したのだろう、とどこか冷静な思考が結論を出した。
シャインは身体を蝕もうとする闇に抵抗しようとしたが、無駄だと言うことをすぐに察し、それならばと潔く身体の力を抜いた。
シャインという存在は確かに今、消えようとしている。
何故、などと問いかけたところでその運命が変わることはない。それはシャインが今まで何度も感じたことだった。どれだけ運命に抗おうとしても、背中に刻まれた『2』という文字は変わらない。何故、と問いかけたところでシャインが混血種の第一位でないことは変わらない。
それが運命というものだと、シャインはそう自分に言い聞かせた。
薄れゆく意識の中で見えたのは微かな映像。
白い光の粒が舞い降りる、金色の壁に囲まれた空間。その中心にいるのは一人の金髪の少女。彼女の脚元には巨大な魔法陣が広がっている。彼女はそこで苦悶の表情を浮かべながらただひたすらにオラシオンを唱え続けていた。
どこかで――彼女のことを見たことがあるような。
シャインはそう疑問に思いながらも別の映像に手を伸ばす。
それはシャインが幼い頃の記憶。彼女の隣にはいつもクロウがいて、彼はポンポンと優しく頭を撫でた。
『捨てられた子』
両親がいないシャインのことをそう揶揄する同級生に対してクロウはいつも自分の事のように憤慨し、そしてシャインに笑いかけた。
『僕はずっと傍にいるよ』
シャインは溢れる涙を拭おうと手を当てたが、その手さえ暗闇に溶け、使い物にならないことを知った。もう会えない、そう考えると次から次へと熱いものが零れ落ちてくる。
『もう一度、あの世界に戻りたいのでしょう?』
脳裏に響いたのは、あの無機質な声とは違う、もっと温かな声だった。そしてシャインはこの声の正体を知っていた。
「どうして――貴方が。カレンさん」
懐かしい記憶を見たせいだろうか。安堵を求めた心が造り出した幻聴だろうか。シャインには最早判別がつかない。それでも。
彼にまだ伝えたい想いがあると、その気持ちだけでカレンの声に縋った。
『戻りたいのなら、貴方のその想いを信じて』
「想いを、信じる」
シャインがそう呟いただけで、全身が光輝いた。透き通った身体が元に戻っている。シャインという存在が少しだけ重みを増したように力が湧いてくる。
『華蓮の名の下に約束を守る者への移行を強制終了。貴方の思い通りにはさせませんよ、ディスペディア神』
カレンの声がそう告げると、光の球は徐々にカレンの姿へと形を変え、怯えるシャインに手を差し出した。
『華、蓮――何故貴方がわたくしの邪魔をするのです! 約束が破られたのを感知し、目覚めたというのに……あぁ、あぁぁぁぁ!』
無機質な声が断末魔のような叫びをあげ、辺りは静寂に包まれた。それでもシャインが少し耳を澄ますと、誰かが悲痛そうな声色でシャインの名を呼んでいるのが聞こえた。
「ク……ロ……ウ」
シャインは茫然と彼の名を呼び、そして目の前で起きたことを理解しようと努めた。しかし分かったのは、シャインと言う存在を消そうとしていた無機質な声が逆に消えていったということだけ。おずおずとカレンの手を取ると、彼女は幼い時いつもシャインにそうしていたように目線を合わせて微笑みかけた。
『約束を守る者は再び眠りに就いたわ。後は貴方が戻りたいと願うだけ。私はそれを手伝うことしか出来ないの。愛しいシャイン。どうか無事でいて』
「カレン、さん。どうして貴方がここにいるんですか。貴方はあの日、火事で――。クロウはカレンさんが亡くなってすごく悲しんでいたの。ねぇ、だからもし無事なら私なんかよりクロウの……」
『さぁ早く、お行きなさい、シャイン』
シャインはそこまで着て、初めて自分の愚かさを知った。これは本物のカレンの意識ではなかった。シャインの目の前にあるこの姿は、カレンが生前に残した映像のようなものに過ぎない。未来を視る夢見の一部に過ぎない。カレンがどのような能力を持っていたのかシャインは知らなかったが、何らかの方法でシャインが約束を守る者に移行するという未来を知り、それを阻止するために術を施したのだ。だからシャインが今、何を話しかけた所で一方通行のカレンに届きはしない。
シャインに残されているのは、ただ前に進むことだけだった。
「カレンさん、ありがとう、私、いつかあの火事の日のことを知ろうと思うの。貴方があの日亡くなった、その意味を。だからその時までどうか待っていて――」
シャインはカレンの手を取り、急速に意識の表面に浮上した。