表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

6 妖怪ぬらり

「くそっ!」

 玲七郎はえないままパッと飛び退すさった。そのままかがんで、「火焔狐かえんぎつね!」と呼んだ。

 玲七郎の頭上を熱いものが通り過ぎるのを感じると、すぐに、髑髏どくろのものらしい「ぐあっ、やめろ!」という叫びが聞こえた。

 しばらくの間、激しくあらそっていたようだが、「ぎゃあああーっ!」という断末魔だんまつまの後、急に静かになった。

「やったか?」

 玲七郎は思わずたずねたものの、元々火焔狐はしゃべらぬようで、「聞いてもしかたないか」と自嘲気味じちょうぎみつぶやいた。

 と、真後まうしろから「もう大丈夫ですぜ、旦那だんな」という声が聞こえた。

 闇鴉の声のようだが、ふと、違和感を覚えた。羽ばたく音がまったくしなかったのだ。ぞわっと背中に鳥肌とりはだが立った。

 玲七郎は「何者だ!」と言いざま、斬霊剣ざんりょうけんで背後の何者かにりつけた。

「おっとっと。あぶねえ、危ねえ。旦那、あっしですよ。めてくだせえ」

 相手はそう言うが、最早もはや闇鴉の声でないのは明らかだった。

「違う! おまえは闇鴉じゃない!」

「困った旦那だねえ。さっきの髑髏に何か変な術を掛けられたみてえだねえ。あっしですよ、闇鴉ですよ、旦那」

 玲七郎はまよった。最初はた声だと思ったが、今はまるで違っているように聞こえる。しかし、もし、そういう術に掛かっているなら、それもまたにかなっている。

「すまん、闇鴉。おれにはどうしてもおまえの声に聞こえない。念のため、おまえの羽根をさわらせてくれ」

「ああ、いいですとも。ささ、どうぞ存分に触ってくだせえ」

 そう言われ、玲七郎はゆっくり右手を伸ばした。

 と、その手を誰かがつかんできた。反射的に手を引こうとしたが、物凄ものすごい力で押さえられている。

「きさまは闇鴉じゃないな! 誰だ!」

「まあまあ、旦那、そういきり立たずに話を聞いてくだせえよ」

 手をほどこうとしながら、玲七郎は背後に向かって「火焔狐! 闇鴉!」と呼びかけた。

無駄むだなことだよ。一応、結界けっかいを張った。狐にも鴉にも、あんたの姿は見えないさ」

 相手は闇鴉の口真似くちまねめ、本来の口調くちょうで話してきた。おどすような感じはなく、むしろおだやかである。なんとなく、聞き覚えがある気もする。

 だが、握った手はそのままだ。

「手をはなせ!」

「そうはいかないねえ。あんたのおっかない剣は、両手じゃないと使えないだろう。おいらを斬らないと約束してくれたら、手を放そう。言っとくけど、うそ駄目だめだよ。『言霊縛ことだましばり』をかけるからね」

 相手の言葉どおり、両手でなければ斬霊剣は使えない。信用はできないが、ここはしたがうしかなかった。

「わかった。約束しよう」

「いい心掛こころがけだね」

 それでも相手は警戒しつつ、ゆっくり手を放した。

 玲七郎は呼吸をととのえようとつとめたが、相手がどう出るか気になって集中できない。

「くそっ。おまえはいったい何者なんだ?」

 相手はフフッと笑った。

「おいらは、ぬらりというケチな野郎やろうさ。灰かけおばば髑髏法師どくろほうしと同じく、元々この山にんでる。まあ、お婆や法師と違って、人間をおそったりはしない。川のなまずって、のんびり暮らしてた。そこへ、あいつがやって来たのさ」

「あいつ?」

「ああ。妖怪じゃないよ。人間さ。あんたも気がついたろうが、山の上にあるお財宝たからを見つけて、欲に目がくらんだ。取られたくないばかりに、招魔しょうまの術を使って魔物を召喚しょうかんしちまった。今はもうその魔物と一体化して山頂に陣取じんどってる。周辺の魑魅魍魎ちみもうりょうを吸い込んで、どんどんパワーアップしてるよ」

 あまりにけな態度に、かえって玲七郎は不審ふしんを感じた。

何故なぜそこまでおれに教える?」

 ぬらりという妖怪は、またフフッと笑った。

「もちろん、あんたに助けて欲しいからさ」

「助ける?」

「そうだよ。確かに山全体の霊気れいきが上がってはしゃいでるやつもいるよ。お婆や法師もそうさ。けど、おいらは違う。あいつのせいで、川から鯰がみんな逃げちまった。あんたがお婆の灰が入ったを、川の水で洗わなかったのは正解だよ。上流から毒が流れて来てる。まあ、そんな理由わけで、あんたには頑張がんばって欲しいんだよ」

 玲七郎はフンと鼻で笑った。

「お生憎あいにくだな。頑張るも何も、この為体ていたらくだ。とてもたたかえねえよ」

「わかってる。おいらを信用してくれるなら、しばらくジッとしてて」

「ふん。好きにしろ」

 玲七郎は、まぶたの上を羽根のようなものででられたのを感じた。

「いいよ」

 言われて、玲七郎がゆっくり目を開く。最初はまぶし過ぎたが、少しずつ目がれ、視界が戻ってきた。

 目の前のぬらりの姿も見えてきた。

「お、おまえは!」

 そこに立っているのは、同級生の後藤であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ