序章1
今日も学校に行く。別に楽しいから行くわけではない。ルーティーンをこなすように学校に行く。何のため?と言われても困る。理由などないのだから。
毎日何も変化がない。特別なこと何も起っていないと思っていた。
先生が出席をとり、それに「はい」と答える。いつも通りの日常だ。そして田崎心の名前が呼ばれても返事はない。いつものことだ。
田崎心はいわゆる引きこもりの不登校生である。今時珍しいことではない。何クラスかに1人はいるものだ。彼女は去年の秋から学校に来ていない。1年の時は違うクラスだったので何があったかはよくわからない。分かっていることはその時僕は何も考えずに生きていたということだけである。
今日もいつもの帰り道をいつもの時間に歩く予定だった。図書委員会の仕事を急に任され帰りが遅れたのだ。周りも暗くなってきた頃にようやく帰路についた。
夜の帰り道。いつもと違う風景はなかなか新鮮なものだった。そして公園のブランコとその近くにいた同じ年齢くらいの女の子も新鮮だった。ブランコにはロープが吊るされていた。女の子はこっちに気がつくと走り出した。僕は呆然としていた。
あの子は自殺しようとしていたのだろう。家についてからそう思った。「死ぬほど辛いことがあるなんてかわいそうだな」とか特に思わずそのまま眠った。
翌朝、いつもより早く家を出た。どうやらテスト勉強のためのノートを教室に忘れてしまっていたのだ。1度日常が崩れるとなかなか元に戻らないものだ。今日も公園にあの子はいた。ブランコのそばに。僕は声をかけてみた。
「ブランコに乗らないんですか?」
あの子は驚いたようだった。それもそうだろう。ブランコにはロープが吊るされていた。
「昨日もここにいたよね?」
あの子は困惑していた。しばらく下を向いていたと思うと口を開いた。
「自殺できなかった…」
「どうして?」
「……怖かった、というか自殺ってきいて驚かないんだね」
あの子は少し微笑んで言った。正直予想通りだったので特に驚かなかっただけなのだが。
「その制服私と同じ学校だね。まあ私は今年1度も学校行ってないけどね(笑)」あの子は皮肉ったように言った。その時僕は思い出した。この子が田崎心だと。
「田崎こころさん…?」
「そうだよ、もしかして今同じクラスの人?そしたらはじめましてだね!」
田崎心は僕が思っていたより社交的だった。引きこもりの不登校生だとはとても思えなかった。
「よかったらまた話さない?」田崎心は言った。
「……うん…」僕は少し困惑したが連絡先を交換した。そして僕は学校に行った。田崎心は家に戻った。