帰れない雪の日
子どもが歩いている。
毛糸の帽子をすっぽりかぶり、
口元にはマフラーをしていた。
夜で月は出ていない。
白い雲からもつもつと湿り気を帯びた雪が降ってくる。
このまま降り続けば、腰のあたりまで雪は積もるだろう。
ダウンの上に雪が降る、ポツポツという音がずっとしている。
ここはひだり。
子どもは左右を見渡してから手を挙げて小走りで道を渡る。
轍はあるが、周りに車はいない。
田んぼの真ん中を歩く。
そのうちに集落に入る。
真新しい雪を踏んでいるきゅっという音はしなくなっていた。
もっと深い雪を踏む音。ぐぉっという音。
ここは一番山に近い集落。
この集落の向こうだ。
子どもは何年ぶりかわからない遠い時間を思った。
お父さん、お母さんに会いたいと思った。
松林を通り過ぎた。
昔、虫取りにいった林。
周りより雪が積もっていない平らな円形はため池だ。
確か昔は鯉がいた。
寒い。
耳が痛い。
帽子はにも雪が積もって。
手袋がぐしょぐしょだ。
やっと子どものいた集落が見えてきた。
もうすぐだ、と思った瞬間。
頭がふわふわする。
目が回る。
目の前が白い光で満たされる。
倒れた子どもの近くには石塔があった。
雪はやんでいた。
昔々。
このあたりには雪が降る日に行方不明になった子どもが帰ってくることがあった。
子どもが来ると大雪になって荒れるので、
修験者に石塔を立ててもらったところ
天気は落ち着くようになったという。
完。