姉からの手紙
むかーしむかし、あるところに人を食べる怖ーい魔女がいました。
魔女は人間を食べることが大好きで、森で迷った人を捕まえては魔法でおいしく料理してしまいます。
だから、決してひとりで森に立ち入ってはいけません。特に、小さな子どもは。
なーんて言われていますが、私は人間なんぞ食べません!
これは、そんな偏食家の魔女と、魔女の家に迷い込んだ兄妹のお話です。
それでは、はじまりはじまり~。
拝啓
親愛なるマルグレーテ
ちゃんと好き嫌いなく、人間を食べていますか?あなたときたら酷い偏食持ちで、お父さんもお母さんも心配していますよ。私もいいかげん親族友人から笑いものにされてつらいです。いいですか、次のサバトまでに必ずひとりは人間を食べるのですよ。でなきゃ、あなたの舌をちょん切ってシチューにしますよ。
いいですね。舌をシチューの具にされたくなかったら、頑張りなさい。
あなたの美人で優しい完璧なお姉様より。
敬具
「なにこれ怖い...。」
いや、わかる。わかっているんだ。魔女として一人前になるためにも、人間を食べることは必須だと。
でも、あのなに食べてるんだかわからん意味不明な臭みとか、独特な食感とか、脳みそのぷるぷるぐあいとか、マジでむり。むりむりむり。いや、ほんっと無理。
何でシカとかクマとか野菜じゃだめなの?
だがしかし、人間を食べなければ私の舌がシチューの具にされる。絶対にイヤだ。
でも人間は食べたくない。ちくしょう、なんであんなにまずいんだ。人間ってやつは!
「でも、食べないと姉ちゃんにばれるよね。つらい。マジでむり。」
いよいよ覚悟を決めるしかないのだろうか。ここらへんで人間ひとり食べておかないと、魔女界隈での私の社会的地位があやうい。抹殺されちゃう。主に自分の姉に。
よし、食べよう。悪いな、人間よ。
嫌々食べられたくはなかろうが、私の世間体のためだ。許せよ。
そうして私、魔女マルグレーテは人間を食べることに決めたのだった。