第六話体育祭の激闘【結ばれる約束】
「僕は嘘つきだけど、人が不利になるような嘘だけはつかないようにしているんだ♪」
記憶が飛ぶということに経験はあるだろうか。例えば事故にあったときとか強い恐怖を経験したとき、泥酔した次の日、そして気絶してしまったとき、そんなとき気づいたら知らない所にいた、知らずに何メートルも移動していたなんてことはないだろうか。昇は今そんな経験をしていた。つまりは自分は走っていていきなり目の前が暗くなったと思ったら、次の瞬間ベットの上に移動していたという、事態になっているのである。
(ここはどこだ?俺は何でここにいるんだ?競技はどうなった?)
昇がいくら考えても埒があかないだろう、なぜならこのような場合こんな問答事態が無意味であるからである。しかもあいにくこの場にそれを教えてくれる人間はいなかった。もちろん、昇がほっておかれたわけではないただ単純にこの場にいるべき人物が席を外しているだけなのである。その間に無駄に暇な昇の思考回路は自分がおかれている状況を把握し始めていた。
(ここは間違いなく保健室だよなあ、となると俺は競技中に倒れたということか、情けないな、あれだけ張り切っておいて初っぱなからこのざまか・・・・・)「・・・・はぁ」
昇は自分の情けなさにため息をつくしかなかった。短距離走において昇のような事例は別に珍しくもない、緊張から呼吸数が減りさらにクラウチングによって急に立ち上がったのと同じ事をしたのだから立ちくらみを起こしても仕方がない状況だった。ただ気絶してしまったのは運が悪かったとしかいいようがないだろう。おそらくは気絶した昇を笑う人間はいても、攻める人間はいないだろう、だが昇自身、自分のあまりのふがいなさにいらだちすら覚えていた。昇が自分の情けなさに少しの間ふて寝を決め込もうとしたちょうどそのとき、扉を開ける音とよく通る声と最近聞き慣れた声が昇以外誰もいない静かな部屋に響いた。
「さーて怪我人は元気かな、って怪我してんのに元気もないか」
「先生、寝てるかもしれないの大きな声を上げるのは止めてください」
入ってきたのは明と後一人白衣を着た男性だった。男のほうは間違いなくこの教室の主である人物だろう。なぜなら、この教室において主以外の人間がいるとしたら病人と怪我人か、そいつらに付き添ってきた人物ぐらいだからである。そして二人は昇の寝ているベットのほうへ近づいてきた。人が入ってきたことに築いた昇は体を起こすと二人を視界に納めた。
「やあ、轟君お目覚めかい、体にいたい所はないかな」
「大丈夫です先生、少し額が痛いくらいですから」
「確かにかなり激しくぶつけたみたいだからね、ひどいこぶになってるよ」
「そうなんですか・・・」
昇には額をぶつけた記憶など無かったのでどうしていたいのか解らなかったが、こぶができていて痛むということは競技中に頭から転んだのだろうという予想はついた。だが、どうして自分が転んだのか想像がつかなかった。
「でも、こうして起きたということはもう大丈夫だねじゃあ、私はテント下に戻るよ五十嵐さん後よろしく」
「はい、先生」
そういうと、この教室の主は明に鍵を渡すとさっそうと外にある救護テントへと戻っていった。三人いた人間のうち一人消えたと言うことはすなわち、保健室には昇と明二人きりになってしまった。だが別に良い雰囲気になるわけでも無し、それよりも昇には気になっていることがあった。
「なあ、明どうしてお前がここにいるんだしかも変なかっこうして」
描写が少し遅れたが今の明の服装は体育祭中に着る学校指定のださいジャージ姿ではなく、上着の裾がくるぶしあたりあり、襟が異様に長く所々が痛んでいる学ランを着ていた。簡単に言えば長ランを着ており、額には長鉢巻き、そして白手袋、何より腕に応援団とかかれた腕章をしていた。その姿は昭和の応援団員そのもので、なにより明の容姿も手伝い少し背の低い美青年が応援団のコスプレをしているようにしか見えなかった。
「変なって、そんなに変かい?最近の応援団のはやりだって聞いてきてみたんだけど」
「最近っていつの時代だよ、それより何でこんなところにいるんだよ」
「非道いなあ、ボクはクラスの保健委員に頼まれてきみの様子を見に来てあげたっていうのにそういう言い方はないんじゃないかな」
実際は様子を見に行くという保健委員から強引にその役目を奪ったのだが、そこは内緒である。
「そうなのか、なら俺はもう平気だから戻って委員の奴に伝えといてくれ」
「そっか、でも、少しここにいるよ、無理してるかもしれないしね」
「無理してないさ、お前がもう少しここにいるって言うなら別にかまわないが俺はもう戻るぜ、ずっと寝てたから体が痛いしな」
昇はそういって大きく体を伸ばすとベットから立ち上がろうとした、だが立ち上がろうとしたその肩を明に掴まれまたベットの上に寝かされることになった。
「まだ動いちゃ危ないって、キミは気失ってたんだよまた倒れたらどうすんのさ」
「放せよ明、大丈夫なもんは大丈夫なんだ、俺のことは俺が一番よくわかる、早く戻らないと競技が始まっちまうだろ」
肩を押さえている明は純粋に昇のことを心配している、その目を見ればそれが上辺だけの言葉でないことなどすぐわかる。だが、昇も昇で、自分がわざとでないにしても周りに迷惑をかけたと思っているので一分でも早く戻りたかった。もう少し安静にしてほしい明、すぐに戻りたい昇、二人の相反する思いは拮抗し、見つめ合うような形で止まってしまった。こうゆう場合この拮抗を打ち破るのは、やはり第三者の介入であろう、その第三者がそのようなことを思っていなかったとしても。そして第三者が介入する多くの場合、話はややこしく大きくなっていくのは、もはやお約束だろう。
「おーい、無事かー。だめだった返事しろー」
「だめだったら返事できないだろうが、少しは考えろ」
「そうか、じゃあだめだったら返事するなー」
「そうじゃなくてだな・・・・」
昇たちが固まっているちょうどそのとき、扉の開く音と、よくわからないコントが聞こえていた。昇のいるベッドの周りはカーテンが閉まっており、入ってきた人物を確認することはできない。だが入ってくる人物からすれば、こんなところ(保健室)に運ばれた人がいるところなど、端から知っている。そして迷わず昇のいるベットに近づいてくるといきよいよくカーテンを開けた。さあ今の状況を確認しよう、明が昇の肩をつかみベットにおさえつけている。二人の顔は遠いが少し見方を変えれば、まぁそうゆうことだ。そして、誰だって予想外の展開がそこにあれば少しは固まるだろう。そして一陣の風が、その場を凪がれていった。膠着から五秒、一番はじめに動き始めたのは、昇だった。まだ固まっている明の手をほどくと、体を持ち上げ、来訪者の方へ体を向けた。そして来訪者を確認すると大きくため息をはいた。
「舞か、どうしたお前も怪我でもしたのか?」
「私がそんな馬鹿なことするわけ無いだろ転んで気失った馬鹿の見舞いだ、見舞い」
まぁ、来訪者とは舞のことだった、他にも付き添いでクラスメートが一名いるが気にしない方向で。さて、舞が弟の見舞いに来るのは不思議ではないのだがそれは、彼らが姉弟だと知っていればのこと、もちろん、知らない明から見れば不思議に思うこと請け合いである。ましてや、それが体育祭で互いにののしりあっていた人物同士となればさらにであろう。
「何で違うチームのキミ達が此処に来るのさ」
「なんでって私のかってだろ、そっちこそなんでいるんだよ」
「こっちが先に聞いてるんじゃないか、もしかしてまた昇に変なことしに来たんじゃないの」
「何でそうなるんだよ、あれは偶然だって言ってんだろ」
偶然とは言え舞が保健室に来た時点で、こんなバトルが開始されるのは必然とゆうわけである。そしてストッパーとなるべき人間はと言えば・・
「天川さん、大変だなまた舞のわがままかい」
「まぁね、舞の奴がどうしても行くって聞かなくてさ」
「ふーん、でついてこさせられたと」
「そおゆうこと、舞にも偶然とはいえこうなった負い目ってのがあるみたいだし」
「負い目ってべつに舞に何もされてないぞ」
「まっこれから説明するよ」
まったりと言い争いをしている二人を視界からのぞいて世間話をしていた。
「えっとどこから話せばいいかな、あれはあんたが競技に出る直前だったかな、私と舞は自分達のクラスの場所で競技を見てたんだ・・・・・
『さあて、次は昇の番か、あいつがこんな所で負けるわけがないとして姉として応援すべきか、敵として接するべきかそれが問題だ』
『別にどっちでも良いでしょ』
『いや良くない、姉としては弟に勝ってもらいたいんだが、勝負をしてる身としては声を上げての応援はできない板挟みってやつだ』
『だったら、心の中で応援すれば良いんじゃないか』
『おお、千夏、頭が良いな、よしっそれでいこう、だがカモフラージュってのも必要だよな』
『必要ないって、まっとめないけど、あまり変なこと言うなよ』
『解ってるって』
『舞、もう始まるぞ』
『よーし、昇てめぇ負けろ!!転けろ!!勝つな!!』
『舞なんて事を!!ってほんとに転けてるし』
『え〜〜〜〜〜!!まじか』
『・・・・・・動かないな・・・・・』
『・・・・・・・・わたしのせいじゃないぞぐうぜんだぐうぜん、たぶん・・・・・・』
ってなことがあってな。それをたまたま、あそこの彼女が聞きつけて、一悶着あってそのときは間の悪い偶然って事で収まったんだが、此処に来てまたぶり返してあの有様って訳だ」
「そうかそんなことがあったのか、全くいつもあいつには苦労させられる」
「まったく、同意するよ」
「さて、何で此処に来たのか説明をもらったことだしもうそろそろあいつら止めないとな」
「そうしようかな」
二人が見た先には取っ組み合いにまで発展しようかとしている、舞と明の二人がいた
「明いい加減にしろ」
「舞も、もうやめるんだ」
「「だって、こいつ(この人)がやめないからっ」」
「ボクの台詞をとらないでくれるかな、それにだいたいキミはだれなのさ、昇にやけになれなれしいしさ」
「それはこっちの台詞だ、人に聞く前に自分が先に答えるもんだろうが」
「素性も知れない人に名のる名前なんてないよ」
「てめぇ、喧嘩売ってのか」
「だったらどうする、ボクは負けないよ」
「その喧嘩買った!!」
「二人とも押さえて押さえてってね、はいブレイクブレイク」
まさに一触即発の場に勇気を持って割り込んだのは、舞のクラスメート、名は天川 千夏『あまかわ ちなつ』だった。
「千夏、下がってろ止めるな」
「そうだよ部外者は黙ってて」
割り込んだだけの結果に終わってしまっだが、それは真にこの騒ぎを押さえるものを呼ぶ布石だった。まぁそれは言い過ぎなんだが、昇がきれるには十分だった。
「二人ともいい加減にしろっ!!!!!」
それは、保健室全体に響き渡るくらいの大声だった。
「何、言い争ってか知らねえけど、喧嘩は御法度だ」
「「だって・・・・・」」
「だってもくそもあるか、そんなに相手のことが知りたきゃ俺が教えてやるよ」
「「・・・・・」」
「明!!」
「ハイッ」
「こいつは不本意ながら俺の双子の姉、轟舞だ」
「昇のお姉さんそれも双子の」
「まぁな、これで納得いっただろ」
「うん、姉弟なら仕方ないかな」
「仕方ないって、次に舞!!」
「うっす」
「こっちは、俺のクラスメートで保健委員代理の五十嵐 明だ」
「それにバイト仲間でもあるんだから」
「だいたい、舞が売り言葉に買い言葉だからいけないんだぞ、明お前もだ」
「「う゛〜」」
「うなるな、そんなに喧嘩がしたいんだったらこの体育祭で勝負すればいいだろ」
「「おおっ」」
昇の提案に二人して、なるほどとうなずく、そのタイミングは全くと言っていいほど同時だった、ほんとは息の合うのかもしれない。
「全く、世話やかせんなよな、所で今何時だ、いい加減クラスに戻らないとな」
「なんだ、昇知らなかったのかよ、今昼休みだぜ」
「なんだと!!本当か?じゃあ俺の出る競技はどうなった!!?」
「それなら裕一君がキミの代わりに出たよ、以外と運動神経が良くてね、大活躍だったよ」
「なんとゆうことを・・・・明なんか伝言受けなかったか報酬とか対価とか」
「何で知ってるの」
「やっぱりか、あいつはなんて言ってたんだ」
「えっと『昇のせいでボクがいらない体力を使ってしまったよ、この対価として昇のお弁当はボクがおいしく戴くから』って言ってた」
「なに〜じゃあ此処に昇の弁当はないのか」
「舞、何であなたが反応するの」
「なんでって、千夏決まってるじゃないか、その弁当に私の分も含まれてるからだ」
「なるほどね」
「早く望月の奴を探さないと私の食べる分が無くなってしまう、いくぞ千夏」
「ああっ舞待ってそんないきなり、昇君あいつも本当に反省してるから許してやってね、それと五十嵐さんあいつと勝負するんだったら私も敵になるからそこんとこよろしく、それじゃお大事にね、舞待ってってばー」
そう言い残すと来訪者の二人組は嵐のようにいなくなった。取り残されたのは、弁当を知らぬ間に搾取されて固まっている昇と、舞の勢いについて行きそびれて固まってしまった明であった。奇しくもまた二人きりの状態に戻ったのである。
「いちゃったね、お姉さん達」
「ああ、元から弁当目当てだったのかもな」
「キミは、お昼ご飯どうするつもりなんだい」
「食堂って今日あいてるか」
「さあ、たぶん閉まってるんじゃないかな、昇が気にしないってゆうならボクのお「じゃあ仕方ない水で我慢するかな」だ、だめだってそんなの午後体力が持たなくなるじゃないか」
「だよなあ、つうわけで、明、弁当分けてくれこの通りだ」
「そんな土下座無なんてしなくてもボクのお弁当を分けてあげるから頭あげてよ」
「本当か、ありがとう明大明神様」
「でも、一つ条件があるんだ」
「なんだ、言ってくれれば可能な物なら何でも飲んでやる」
「じゃあ、体育祭で絶対に勝つよ、昇のお姉さんに負けないんだから」
「OK、問題なしだ」
「よしっ決まり、じゃあ持ってくるからここでおとなしく待ってるんだよ」
「おう!!」
そうして保健室から明もいなくなって昇だけが残された。
(ぜったに勝つか、俺ら姉弟だけの勝負だったんだけどな、こりゃ本当に負けられなくなったぜ)
そして残された昇は一人新たな決意を胸に秘めるのであった。
次回予告
どうも、出番の割に名前が出るのが遅かった天川千夏です。せっかく何でタイトルコール張り切っていきます。
体育祭も終盤にさしかかっての一幕、繰り出される業と技、火花散る戦場、最後に勝ち残るのは誰か、そして彼女らの勝負の行方は・・・・・
”ボクは(私は)負けない”『体育祭の激闘【戦場に咲く華】』
えっ台本通りに読めって、そんなのアドリブで十分十分、気にしない気にしない。
じゃ、たのしみにな。