第五話『体育祭の激闘【言霊の力】』
「最初からできると思ってやらなきゃなんにもできないんだぜ」
今回の舞台は六月も後半、季節は初夏に入ろうかと言う所、今までむしむしじめじめとした梅雨も去り、空には夏の太陽と青空が広がっている。今日は潮見が丘高校では体育祭が執り行われようとしていた。っと、その前にこの体育祭のルールを確認しておこう、組み分けは赤白の二つ、クラス単位で、赤白が決められ、プログラムのなか競技やパフォーマンスで競い合い、最終的に点数のたかい方が勝者となる。単純にして体育祭の原点とも言える方式である。そしてその体育祭に浮かれる馬鹿が一人。
「今日は体育祭だー!!!!!白組勝つぞー!!!!」
今回はそんな昇の雄叫びが響き渡るなかから始まります。開会式も終わり、プログラムの開始を待つばかりの自陣営の中、昇は一人無駄に熱血していた。まぁ、思い出してもらえれば小学生の頃こんなやつがクラスに一人はいたことだろう。そんな無駄に熱血している昇の横では、クラスメートたちが何言ってんだこいつと言った目をしていた。だが、こんな馬鹿な熱血に共鳴する輩もいた。
「馬鹿言っちゃあ困るね、勝つのは私たちの紅組さっ!!!」
隣の陣営に・・・まぁクラスに一人はつきものだと言うことなのだろう。そして何を隠そう、その熱血共鳴する馬鹿とは、舞だった。姉弟そろって何やってるんだこの熱血どもがと言いたい所だ。そして回りには良い迷惑だった。
「なんだともう一回言ってみろ!!!!!」
昇がの名乗りにに答える。気分は河原の決戦と言った所か、まさに血の気の餓えた虎のごとくである。
「何度だって言ってやるさ、勝つのは私たちさ、これはもう決まっている!!」
そして何を言っているかのごとく舞がその豪声に答えた。その姿は、勝利を確信し下を見下ろす龍のごとくであった。そしてその傍若無人な態度をあざ笑うかのように昇は答えるのであった。
「やりもしないで勝利宣言とは、笑止千万、予言者気取りとは恐れ入ったよ、このペテン師が!!!!」
そんな昇の挑発にも乗らず、舞はまさに小物がほえていると言わんばかりの態度はまさに勝利を確信したもののみが漂わせる雰囲気だっただった。
「解ってるのさ私たちは勝って、何たって未だ負け知らずの私がこっちにはいるのだからそして私が勝といった、だから勝つのさ」
舞の自信の裏には、一種の神がかった経歴があった。さかのぼること十年以上はじめは小さな保育園の体育祭から、小学校、中学校と未だ体育祭においては負け知らず。まさに勝利の女神とはこの人のことである。もちろん昇もそのことを知っていた。だがこの戦いだけには負けるわけにはいかなかった。もう一回言い返してやろうという所で、思わぬ邪魔が入った。この言い争いを見るに見かねたお互いのクラスメートである。互いのクラスメートが昇と舞の首をつかみ引きずるようにして去っていった。その間も両者はにらみ合っていたという。こうして、この戦いは他者の介入という形で集結したが、こんなものこれから始まる戦いの序章に過ぎなかった。だんだん激しさを増す両者の争い、そうして二人の争いに引きずられるように、回りのクラスメートたちそして他のクラス、最後には上の学年すらも争いに自ら進んで飛び込んでいくようになった。だがこうした争いに疑問を持つものも現れた。
「全く何をそんなにはりきってんだろ」
明もそんな人たちの一人だった。今は少し疲れて回りの喧噪から少し離れた所で体育祭を見ているが、さっきまで昇たちと一緒になって体育祭を楽しんでいた。そんな明には今日の昇のテンションがどうも腑に落ちなかった。知り合ってから、二ヶ月しかたってないが明は昇という人間のことを少しは解っているつもりだった。少なくともいつもは、自ら進んで事を起こすような人間ではなく、起こってから仕方なくその輪に入って行きいつの間にか中心にいるようなそんな人物だったはずなのだ。それが今回に限り、自ら率先して争いの渦中に飛び込んでいく姿は、どこか変に思えてしまうのだった。それは明に留まらず昇をよく知る人物にとっては、やはりどうしても引っかかる事柄なのであろうか、もうすでに動き始めた人物もいた。そしてその人物は明のすぐ後ろにいた。
「そんなに気になるのかい?昇のことが。知りたいとは思わないかい、どうして今回に限って昇があんなに張り切っているのかを」
「ひゃっっっ、あーびっくりしたな。望月君いきなり後ろから声をかけないでよ、驚くじゃないか」
やはりというかなんというか、その人物というのは、裕一だった。明の後ろから声をかけた裕一はさも訳を知っていますと言わんばかりの態度だった。
「ごめんごめん、で、どうなんだい知りたいとは思わないかい」
「なんのことかは言わないけど、ボクはたとえそれが取るに足りないことだとしてもむやみ人の事情を聞きたいとは思わないね」
「そうかな、僕には知りたいって顔に書いてあるようにしか見えないけどね」
明の突っぱねるような言葉を聞いても裕一は態度を崩すことはしなかった、そして心をのぞき込むように明を見るのだった。明はたしかに、昇がどうして張り切っているのか知りたいと思っていた。だが、やはり聞くべきじゃ無いとも思っていた。考えを読まれたことに加え好奇心と知りたいという欲求の間に揺れ、明は言葉を返すことができなかった。
「無言は肯定ととって良いのかな?まぁいいや別に僕も知っている訳じゃないし。ここで聞きたいと言われても困る所だったんだよ」
「じゃあ、どうして僕にあんな事を聞いたんだい」
「五十嵐さんだったらなんか知ってるんじゃないかなーって思って鎌かけてみました」
明はあきれてものが言えなかった。この望月裕一という人物、さらっと自分のしたことを悪びれず言い放ったからであった。そして、自分がなんの根拠もないのに彼が事情を知っていると思っていたことに対し驚いてもいた。裕一が何も言わなければ明はあのまま、裕一が事情を知っているものとして話を進めていただろう。その事実に気づいたときただ口を結び、だまって目の前の底の知れない少年を見つめるしかなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめんごめん気に障ったんだったら謝るよ、ほんとごめん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
謝ったのは良いが空気が固まったままなのを裕一は感じていた。裕一としては何かしらの事をばらした事による反応がほしかったのだが、それに反して明は眉一つ動かさなかった。なぜ反応を欲したかと言えば何かしらの反応があればそこからある程度の考えを読み取る力が裕一にはあるからだ。ただ見つめられるというのは無言の空間においてこれほど居心地の悪いものはない、これが恋人同士であれば甘い空間が形作られるのであろうが、ここにはいるのは恋人同士ではなく共通の友人を持つ知り合い同士でしかなかった。いや、もうお互い友人と言えば友人といえる関係にいたが、異性の友人とこうした空気の元にいる経験のない裕一はこうしていられるとどうしたらいいのか解らなかった。だがそこに救いの神が舞い降りることになる、少々むさい神でうさんくさい奴だったがこの場の固まった空気を一掃するにはうってつけだった。
「ヘイッボス、ミッションがコンプリートしました」
その神、はいつぞやの外人さんだった。裕一としてはこの好機を逃すものかと、外人さんのほうに顔を向けるのと話を始めた。
「ありがとう、結果を説明してくれるかな何か解ったのかい」
「イエス、ボス。ショウさんのファミリーとソートされるリトルガールにネゴジエイトをトライしました」
「それは良いから結果だけ簡潔にまとめてもらえるかな」
「ソーリー、ボス。そのリトルガールとトークをしてたら、ポリスメンが来たんでゴールドを置いてミーはエスケープしてきました」
「だからなに」
「何も解りませんでした」
「・・・・・・・・・・・・銀、減給っと」
明は脇から聞いていただけだったが、一つ解ることがあった。この外国人は使えないということだ。とりあえず間違っているところは多々あるが今はそれどころではなかった。その疑問をはらすべく、最後の言葉を発した後外人に泣きながらすがりつかれている裕一に近づいていくのであった。
「ねえ望月君、きみって変な趣味の持ち主?」
「え〜と、なんのことかな」
「いやね、どうしてその外人さんにすがりつかれてるのかなーって、しかもボスって呼ばせてるし」
疑問に思うのも当然だった、明にしてみれば裕一は普通のひとである。その人が、外人をあごで使うような行動を見せれば何かあると思うのが普通だった。
「いや、あのほらもうすぐ昇が出る競技が始まるよ、僕は応援に行かないとそれじゃ」
そういうと裕一は風のようにいなくなってしまった、それはもう見事な逃げっぷりだった。昇の応援というのは嘘ではないのだろう、さっきから選手を集めるアナウンスが響き渡っていた。裕一がいなくなったことで明の目線は自然とその場に残った人物つまり、謎の外人さんに向けられるはずであった。しかし、そこには誰もいなかった、二人してまっこと見事な逃げぷりである。まるで逃げる訓練でもされているかのごとくであった。そうしてその場には明一人取り残されるのであった。
「二人ともいなくなちゃったよ・・・・・・・・・まぁいっか、ボクも昇の応援に行こう。こうなったら昇に直接聞いてみるんだから」
そういうと明は競技が行われる方へと歩いていくのであった。
一方、その頃昇はと言えば、午前の部の競技である50メーター走に出るため、スタートラインの後ろに並んでいる所であった。50メーターたったそれだけの長さしかない所を全力で駆け抜ける、高校生にしては距離が短いがあえてそうすることにより、スタートの緊張から炸裂音に対する一瞬の反応、走っている最中に至るまで一時たりとも気の抜けない勝負になっていた。昇の番は今や遅しと近づいていた。そして、一組前の選手たちがピストルの銃声とともに一陣の風となり駆け抜けていった。そうすると昇の目の前にはこれから走るコースが広がった。何者にも妨害されない自分だけのコース、眼前いっぱいに広がるそのコースを見て昇は柄にもなく緊張していた。そうして自分の名前がアナウンスにより呼ばれるとゆっくちとスタートラインに立のであった。だが昇はそこでしゃがみ込んだ、回りが立っているのに対し昇はしゃがみ込む、そして足幅を狭めスタートラインと半歩しか離れていない所に置くと昇はスタートラインに手を置き大きく足を伸ばした、そして体を引き絞って行く。誰かが言った。
「あいつ、クラウチングスタートする気だ」
そう昇は陸上でいうクラウチングスタートを決めるつもりでいた、手を地面につけ腰を大きく上げるそのポーズは、これから獲物をかる獣のように写るであろう。事実、たった状態でスタートするより加速や反射の面において、クラウチングスタートは有効なスタート法だ。だが今までこのスタートをする人間はいなかった、陸上部の人間もいたが皆立った状態でのスタートを選んでいた、なぜならクラウチングスタートをするにはリスクを背負わなければいけなかった、クラウチングスタートは最初につま先で地面を押すこの際に大きく足を滑らせてしまい大きくロスをしてしまうリスクをである。このリスクは陸上でも正式に使われている、道具を使えば簡単に解消できるものなのだがあいにく体育祭においてそんな道具など用意されるわけもなく、50メートルという距離を考えればクラウチングスタートの利点よりリスクのほうが大きくつくのであった。だが昇はその中であえてクラウチングスタートを選んだそこには自信があったからではない。昇は自分を追い込むことにより集中力を最大限に引き出そうとしていたその結果導き出されたのがこのクラウチングスタートであった。しかし、スタートした先に待つ恐怖にまで注意がいってなかった。
だが昇がそれに気づく前に無情にも係の人間の声が響くのであった。
「いちについて、よーい」 パンッ
乾いたピストルの音が響いた、その瞬間昇は放たれた矢のように、野を駆ける獣のように飛び出していったそのスタートは、スタートした瞬間に回りの選手たちに後ろ姿を見せるほど見事なものだった。
(よし最高だ!!)
思わず自画自賛してしまうほど昇にとっても最高のスタートだった。だがそんな昇に急激な目眩が襲ってきた目の前が黒く反転していく。
(あれ急に目の前が暗く・・・・・・)
そして昇はグランドに倒れ込んでしまったもちろん慣性の法則に従い足をもつれさせ転ぶという形で。競技は一時中止となり、意識のない昇は担架で運ばれていった。そして応援席のほうでは明の怒声が響いていた・・・・・・・。
さてここで今回はひこうと思います。さてなぜ昇は倒れてしまったのか、裕一の正体は、明が怒っている理由は、そしてタイトルは何を示していたのか様々な謎を残して次回に続く・・・・・
次回予告
よお、轟舞だ。久しぶりに私の出番だったな、まっ最初だけだったけどな、そんなの気にしないぜ。さてと、昇が倒れて終わったんだがあの後ちゃんと保健室に運ばれってたぜ。後で見に行ってやらないとな。ちなみに読み手はまだ雪を見ているってさ、好きだねーあいつもまぁあんな奴ほっておいてタイトルコールだ
”ほんとに負けられなくなったな”『体育祭の激闘【結ばれる約束】』
次回も私が大活躍だぜ、楽しみにしとけよ。
こんにちは、ここまで読んで貰い心より感謝します。ここで少し連絡事項があります、この『体育祭の激闘』おそらく三部編成になる予定になってます。しかも一話の長さもいつもより多めになるんで更新が遅れるかもしれません。なので気長に読んでくださるとうれしいいです。また、誤字脱字、表現の不明瞭な点がありましたら改善するように尽力を尽くすので一報して貰えるとうれしいです。ちなみに次回からのこのスペースは、主要キャラや名前の出てこないサブキャラたちの紹介の場とさせていただきます。一人か二人ずつくらい紹介していくんでこっちはあまり期待しないで待っててください。