第四話『迷い込んだ珍客』
「やらないで何かをなす事なんてできない、あがきなさい、あなたがそれを望む限り私があなたを支えます」
ここは深夜のコンビニ『龍孫』昇は今そこでバイトに励んでいた。いつもなら、夕方から夜にかけてのシフトで入っているのだが、急遽深夜の人員がいなくなったので、昇はこうして深夜のシフトにはいることになってしまった。何もこの深夜のバイトが初めてというわけでもなく、週に何度かこうしてヘルプとして入ったことがあった。シフトの時間も終わり、この日は学校も休み、他のバイトも入ってない、後は家に帰ってねるだけなのだが昇は、これ以上ないほど疲れていた。いつもなら一人、暇な店内を眺めて、時間になったら商品のチェックや補充管理在庫チェックなどし、たまにくる、酔っぱらいや、深夜まで遊んでいる学生、残業帰りのサラリーマンなどを相手にマニュアル道理の対応をすれば良いだけなのだが、今回は勝手が違った。まず今回は深夜バイトが初めての人員にいろいろと教えなければならなかったということ。その人員というのが明だったこと。明とは四月の頭、一緒の時期にバイトを初め、それ以降ともにシフトに入る日も多く、バイト仲間としては気が知れた仲である。だからバイト経験は似たような物である、それ故に何かを教えるにしても知っていることと知らないことが虫食い状態であるため、穴が多くそれのフォローに回らなくてはいけなかった。これはこれで疲れるのだが許容範囲のなかだった。なぜなら一番疲れる要因になった本当の原因は他にあるからである、それは今日に限って変な客がやってきたいうことである。人数自体は数人だったものの、そのキャラの濃さというのが異常に濃かったからである。今回は今の時間から少しさかのぼってどのような客だったか、見ていこうと思う。
ケース1・似非関西人の襲来
その客が訪れたのは、バイトが始まって一時間ほどたった頃、昇が明に深夜のバイトと夕方のバイトの違いを教えている最中だった。その客はまず雑誌コーナーに行くと立ち読みを開始した、深夜のコンビニにおいて立ち読みの客など腐るほどくる、その客が問題になったのは、いちいち雑誌に対して大声で訳のわからないつっこみを入れているせいだった。
「なんやこの漫画おもろなくなってきたやん、やっぱこん作者、人気でたからってあぐらかきはじめたんとちゃうん」
「この展開無いわ、わいでももっとおもろく書けるで、今度持ってたろかな」
次に、その客が向かったのは、雑誌コーナーの隣、未成年お断りのコーナーつまりは、18禁の本が置かれているコーナーだった。そこで本を読み続けた、それならまだ良い、時たま、雑誌について聞きたいことがあると言っては明に本を店に来るのだからたちが悪かった。
「嬢ちゃんこの部分なんやけどな、残な表現のある雑誌をこのままにしておくのはどうかとワイは思うんやけどカバーとかかけた方がいいんとちゃう」
「あの、その、それは私には判断つきかねますのでその雑誌をもとのコーナーに戻してきてください」
「じゃ、そっちの店員はんこれ戻しといてもらえるたのんますわ」
こんなやりとりを何回か繰り返した後で、いかがわしい雑誌を何冊かかって出て行った。昇自体は疲れなかったが、対応に困る客であったことには代わりがなかった。
ケース2・勘違い外国人の場合
次の客がやってきたのは、エロ似非関西人が出て行ってから、三十分ほどたってからだった。その客は、身長185センチはゆうにある体格で、髪は銀色、目は、青色だった。まさに外国人と言った風貌の男は、まっすぐにレジにくると、昇に向かい理解しがたいことを言い始めた。
「Excuse me,日本のコンビニには何でも置いてあると聞いてきました」
「はい当店では豊富な品揃えをもっとうにしてますから、何をお探しでしょうか」
「新しい仕事をくださーい、今のBossが very very severeでたいへんなのです、だから新しい仕事Please」
「あの当店は、仕事の斡旋は、しておりませんので仕事をお探しであるのならば、この雑誌に求人情報が載っていますのでそちらで探してください」
「OK,このbookはおいくらですか」
「そちらは無料で配布しているものになりますのでご自由に持って行ってください」
「free?本当ですか、本当にfreeなのですね、ラッキーです、もう2冊ください」
「はいかしこまりました」
その後この外国人は、喜んで出て行ったが、その後その外国人の話を聞きつけた仲間の外国人がきて、勝手に無料配布でない雑誌を持って行こうとする事が何件か発生しそのつど昇と明は対応しなくてはならなくなってしまった。それは朝近くになるまで永遠とつづいた。
ケース3・紳士の場合
その老紳士が訪れたのは、日付が変わり三時間ほどたったときだった。このとき明は休憩に入り、昇は一人で商品の入れ替え作業をしていた。その老紳士は、くるとすぐに慣れた手つきで勝手に商品棚を整理し始めた。商品を手に取ることを注意はできないが、勝手に店員のまねごとをされるのは大問題である。変態エロ似非関西弁野郎や、勘違い外国人団体さんはまだ対応しやすいが、こうして仕事を手伝い始める老紳士など昇にとって前代未聞であった。
「すみませんが、これは私どもの仕事ですのでお客様に手伝っていただくわけにはいきません」
「なあに、気にする必要などありませんよ私が好きでやっていることですから、迷惑はかけませんからどうかお気になさらず」
気にならない方がどうかしている、だがその老紳士の動きには一分の隙もなく、まさに転職であるかのように商品棚の整理をしていた。昇もずいぶんとこの仕事に慣れ少し自信を持ち始めたところだったが、この老紳士の動きは、今まで見てきたどの店員よりも早く正確で、そして優雅だった。昇が賞味期限の切れた品物を回収し終えたときには、その老紳士は、すべての棚の整理を終え、コンビニ内の清掃に手をかけていた。
「すいません業務上、本当にやらせるわけにはいかないので、手を引いてくださいませんか」
「ふむ、この老いぼれの僅かな楽しみを奪うつもりですか、このふがいない老人を拾ってくださった方へのかすかな手助けすらあなたは奪うおつもりですか」
「ですが、それは定員の仕事ですので、定員でないかたにやらせるわけにはいかないのですよ、どうか解ってください」
そのような会話が千日手のごとく繰り返されていた、ちょうどそのとき明の休憩時間が過ぎ明が顔を出してきた。
「昇どうかしたの、またトラブルでも起きた?って、一人箒を持ってたってるだけ?もしかして一人コントでも練習してた?」
「練習なんてしてないさこのお客さんがな」
「このお客って誰?昇しかいないけど、ボクには見えないお客でもいるのかい?」
「そんなはずはここにいるだろ、って・・・・いない、どこにきえたんだ・・」
そのときにはもう、その老紳士は煙のように消えていなくなっていたのであった。この後整理された商品棚を見せて確かにその老紳士がいたことを明に説明した昇なのであるが、その後、休憩時間になっても休憩を取らなかったことだけ伝えておく。
ケース4・迷い込んだ珍客、思わぬアクシデント
今回最大の珍客が訪れたのはついさっき、ちょうどこの話が始まる直前である。その珍客は、赤いリボンをつけ、茶色いきれいな毛並みで、どこかしら気品すら漂わせる猫であった。その猫は自動ドアが開くのをじっと待った上で店内に入ってきた。もちろん、店内への動物の進入は御法度である。昇は捕まえに走るが、当然猫は逃げる、人間の瞬発力と猫のしなやかな瞬発力を比べる方がどうにかしている、しまいには、昇はばててしまった。
「この猫早い、捕まんないぜ」
「一人でがむしゃらに追いかけるからいけないんだよ、昇はそっちから回って、ボクはこっちからいくから」
「挟み撃ちか、よし、明いくぞ」
「了解、一、二、の三でいくからね」
昇にはこの時、猫がこっちを向いて笑ったような気がしたが、この挟撃がだめならば、昇たちにこの猫を捕まえるすべはない。昇と明はそっと息を潜め猫ににじり寄っていった。
「いくよ、昇」
「良いぜ、明」
「「一、二、三」の三」
結果からいこう、猫は捕まらなかった。昇が早く飛び出してしまったからである、猫が捕まらなかった以上、昇と明の間に挟む物は何もない、そして飛び込んだ衝撃で、昇は明を押し倒すような形になってしまった。
「・・・・・///////」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・//////」
「・・・・・・・・?」
「・・・!!!!!!!!」
「ぐおっっ」
「昇、早くどいてよ重いじゃないか///////」
二人は数分見つめ合った後、明の容赦ない一撃で戻ってきた。昇という貴い犠牲の下ではあるが。説明するならば明は攻撃するに当たり膝を使った、そして昇が悶絶していると言えばどういう状況になっていたかは想像もつくだろう。その間猫はと言えば開けておいた自動ドアからいつの間にかいなくなっていた。骨折り損とはこのことである。そして冒頭のシーンに戻るのである。
「疲れた今日は特に疲れた、かえって泥のように眠りたい、こんな日もうこりごりだ」
「ほんとに疲れてるね、まぁボクも疲れたけどさ、別に悪い日じゃなかったしね」
「よくあんな事があって、そんなことが言えるな」
「別に最後に少し良いことがあっただけだよ、それでおあいこって事」
「何があったんだ」
「内緒だよ、ほら引き継ぎの子たち来たからさ、さっさと書くもの書いて帰ろ」
そういったうちに、引き継ぎの手続きもすみ、昇と明は帰っていった。今回は並んで帰る二人を見送りながら終わろうと思う。そしてコンビニの近くの塀の上にはさっきの猫がいた、その口には袋入りの猫のおやつがくわえられていた・・・・・・・・つづく
次回予告
こんにちわ、前回に引き続き次回予告をやる明です。悪ふざけの過ぎた読み手は、今回、裕一君に頼んでいなくなりました。なにやら、コンクリートの靴を履いて、雪を見に行ったんだっていってた。さて次回は、春も終わり体育祭の時期がやってきました。昇がなにやら張り切ってるんだけど、理由がよくわからないんだよね。まぁ、無駄話はこれくらいにしてと、タイトルコールいっくよー!!!
”体育祭だ俺は勝つぞー”『体育祭の激闘【言霊の力】』次回をお楽しみにね。