第二話『桜に迷う春の道かな』
「人の根本は変えられないけどそれ以外ならどうにでもなるもんなんだよ」
古来より桜と月には不思議と人を引きつける力がある。桜や月が多くの詩に詠まれるのも、昔花と言えば桜であったように、月に己の心を写すように、桜が血を吸い、月が狂気を降り注ぐのも、それらが人を引きつけて止まないからなのであろう。だから、姉のセクハラを振り切り家族の朝御飯を用意して、自転車に乗って高校を目指していたはずの昇が、いつの間にか知らない道に出てしまったのは昇の目の前に続く桜並木のせいなのだ。少なくとも昇はそう思っている。ただ、ばらしてしまえば道を間違てしまっただけなのだが。だが、今の昇にはそんな些細な違いなどどうでも良いことになってしまっていた。昇にそう思わせるほどに、目の前の桜並木は見事な物だった。四月も半ばに入り昇の住んでいる町では、桜が満開を迎えていたる、しかし、ついこの間までこの道にこんなにも咲き誇る桜並木など無かった、この道には白樺がぽつぽつと植えられているだけだったが、今は見事なまでに満開の桜たちがその姿をそこに浮かべているではないか。異常な桜並木、昇には一人こんなことができる友人がいる、そしてどうしてこんなことをしたのかも何となくだが解っていた。だがその友人がすぐ近くまで近づいてることまでは気づいてないようだった。そしてその友人はぽんっと昇の肩に手を置いた。
「やあ、昇どうだいきれいな桜だろ、やっぱ、春には桜だと思ってね思い切って桜を植え直してみたんだよ」
いきなり手を置かれたことで昇の体が驚きに跳ねる。そして後ろから話しかけてきた、件の友人を確認するとやはりかと大きくため息をはいた。この友人、名を【望月裕一】(もちづき ゆういち)という。昇の友人であり小さい頃からともに過ごした幼なじみであり、親友と呼べるほど仲がよかった。この友人昇を驚かせて楽しむという少し変わった趣味も持っていた。小さい頃から、舞と共謀しては何かと昇にいたずらをしかけ、それがこうじ小学校、中学校とを共に過ごし、そして今年の春から昇と同じ高校に進学することになっていた。そのことが決まった日には、二人してまたお前かとぼやきあったという。
「よお、裕一やっぱおまえか、いつも後ろから話しかけてくんなよ驚くだろが、心臓に悪い」
「どうしようかな、昇はいつも驚いてくれるからね、脅かす方としてはすっごく楽しいからねこっちとしてはしばらくは止めるきはないよ。それより、こんな所にいるなんて、散歩の趣味でもできた?」
「そんな高等な趣味俺にはないよ、高校の入学式に向かう途中だ、おまえも早くしないと入学式早々遅刻になるぜ」
昇はあきれた風にいった。何せ入学式の開始時間に一時の猶予もないのに目の前の友人は制服にも着替えてないのだ。もちろん時間がないのは昇だけであり、裕一にはまだ余裕があるのだが昇はそのことにまだ気づいてなっかった。なぜなら、朝のやりとり時点で舞は昇その勘違いに気づいてはいたが、おもしろそうなので放置されていたからだ。そんな昇の言葉を聞いて、今度は裕一があきれる番だった。
「昇、入学式にはまだ時間が十分あるよ、ゆっくりこの桜並木を見てく時間が十分にね」
「嘘だ、俺が出たとににはもう八時を回ってたんだ、もしかしたらもう遅刻になってるかもしれないのになに、何悠長に構えてるんだ、桜にでも狂ったか」
「桜狂いか、そうかもしれない。いつもながら昇はおもしろいこと言うね」
「だぁ、俺が言いたいのはそんなことではなくてだな、何で制服にも着替えずにのんびりしてるかってことなんだよ」
昇は焦っていた、遅刻するかしないかの瀬戸際にいてこの友人は、制服にも着替えず何をのんびりしているのであろうか。昇は迷っていた、このまま裕一につきあい桜を見続け遅刻するか、無理にでも裕一を家まで連れて行って着替えさせ全力で高校に向かうか。このとき、昇の頭の中にはこのままおいていく選択肢もあったが、あいにくそんな選択肢最後まで選ぶつもりはなかった。
「だって入学式は九時半からだよ、いまは、ほら八時半にもまだなってないじゃないか。だからもう少しこの桜を見ていても良いんだ迎えももうすぐ来るしね」
「入学式は八時半からじゃないのか?嘘言ってないよな」
「僕は嘘が嫌いだ、それに八時半って言うのは朝のHRが始まる時間だよ昇、今日じゃなければその時間に行かなきゃ遅刻だけど今日は特別だからね」
「そうだったのか、急ぐ必要なかったって事か・・・・俺の朝の激闘はいったい何だったんだ・・・・・」
昇は朝に舞から受けた仕打ちを思い出し軽く落ち込んだ、裕一の言葉を信じるならば朝あんなに急ぐこともなく、つまりは舞の前で着替えることもなく、危うく姉に貞操を捧げかける危機も元から無かったということなのだ。見事な空回りである、昇には途方に暮れるという選択肢しか残されていなかった。結局、その後、昇も一緒に見事に咲いた桜並木を眺めることになったのだった。そこには人の手は加わっているが見事な桜並木が広がっていた。その桜並木に風が吹くたび、ひらひらと花弁を落とす姿は桜のはかなさと優美さを如実に示している。何気なしに空を見上げれば絶好の入学式日和だと言わんばかりに桜と嫌みなくらいすんだ青空がそこには写っていた・・・・・・
「桜、きれいだな、嫌なことを忘れさせてくれるぜ・・」
「そうだよね、きれいだよね、ああこのまま咲き続ける桜であればいいのに・・」
「桜は散るからこそ人を引きつけるもんなんだよ、散らない桜はただの花にすぎねえよ」
「そうかもしれないけど僕は一本でもいいから散らない桜がほしい、そこに春を閉じこめて独り占めしたいよ」
「贅沢なやつだ」
「まったくだよね、自分でもそう思うよ」
「だったら少しは直せ、この桜並木だっておまえのわがままだろ」
「きれいなんだからもんくは無しさ、この桜並木にはそれだけの価値があるんだよ、街の名所にもなるしね」
「それも計算ずくか、もう少しおとなしく素直に楽しめよな」
「無理だね、これが僕の価値観だから・・・」
「全く難儀なやつだ・・」
こんなやり取りが永遠と続いていくので気になるところではありますが自分はここで下がらせて貰いましょう。自分に止めるすべはないのでこのまま放置するが、二人ともそのままだと遅刻するぞ本当に・・・・・。次回につづく
次回予告
こんにちわ、望月裕一です。今回の次回予告を他人任せな読み手に任されました。台本もあったんだけど、ふざけたことしか書いてなかったから処分しました。さて次回はやっと入学式編に入ります、トラブル体質を地で行く昇に平穏な入学式などにあわないよね。もちろん、イベントが待ってますよ、楽しみにしてくださいね。入学式といったら出会いと再会だよね。それじゃあタイトルコール行こうかな。
”きっとこうなることはきっと必然だったんだよ”次回「再会は忘却とともに」こうご期待。
読「普通だ、普通すぎる・・台本渡したのに・・・燃やされちゃった・・・むなしい」
無事第二話投稿完了です。こんな駄文を読んでくれたばかりか、ここまできてくださった方に無量の感謝を。定期的に見て回ってますが誤字脱字があったならご報告いただくと喜びます。ちなみに感想を貰らった日には狂喜乱舞します。それでは第3話でまたお会いできることを願っています。