死神佐平 13
男は、夜中じゅう歩き回って、丘の上の広い墓地を見つけた。
墓石の一つに腰掛けて、途中で目について何気なく買った煙草を、何本も灰にした。
石のひんやりした感触と、死者達が作り出す静けさに、男の心は随分癒された。
男はいつの間にか、眠ってしまったようだ。
怖ろしい夢も見ないほど、深く眠っていたようだった。
気が付いた時には、朝になっていた。
朝の墓場もいいものだと、男がのんびり煙草を燻らせながら散歩をしていると、駐車場に小型のマイクロバスが停車するのが見えた。
男が何かと思っていると、バスから六十過ぎの年寄り連中が、出てくる出てくる。
朝っぱらから、墓地を買う為の下見に来た、年寄り連中のツアーらしかった。
男が見るに、連中は当分くたばりそうにない。
墓の特徴や、購入の特典の現地説明後、昼食会にでもなっているのだろう。
営業らしい、ツアーの先導をしている四十前の男の方が、年寄り達よりも先に墓が必要そうに見える。
男は、かしましいと言うよりは、騒音公害のような女達のお喋りに辟易となって、全員あの世に送ってやろうかと不穏当なことを考えた。
今すぐ墓が必要になるように。
それも馬鹿らしく思えて男は、そのもう死者達の安寧の場ではなくなった墓場を、あとにした。
その後、駅を見つけて、男は逃げるように家に帰ってきた。
日の光は、どうも気にいらない。
長く浴びていても別に害はないが、それでも薄暗い冥府で育った男には、人界の昼は苦痛だった。
アパートに帰ると、部屋に漂う死臭が少し強まっていた。
まだ腐臭にはなっていない。
意外と建物の造りは気密性が高いし、長く見て一週間は、腐敗臭が部屋の外まで洩れ出すことはないと思われた。
死後硬直が解けた後、死体は少しずつ腐り始めることだろう。
男は、クローゼットに背を持たせかけて、目を瞑った。
冥府のことが、思い出されて仕方がない。
人界に来て己が出合った出来事を思い出すにつけ、男は苛立ちが募ってくるのを抑えられなかった。
やりたいように、好きなように生きてやると昨日の夕方、男はこの部屋を出ていった筈だ。
しかし男は、本当に自分のやりたいように振る舞えたか疑問だった。
己の能力を最大限使うことに、男は興味を覚えられなかった。
誰に咎められる訳でもないのに、男が力を使った後に感じるのは、空しさと自己嫌悪だけだった。
冥府にいた時は、こんなのではなかった筈だ。
冥府にいた時、男は何かに追われるように、自分の力を使っていた気がする。
男を追っていたのは、己自身の影であった。




