死神佐平 12
男はクスクスと笑いながら、
「あーあ、おたくらテレビ見てないの? 最近、流行ってんだぜ。原因不明の肺とか胸のビョーキ」
と、あらぬ嘘を吐いた。
少年の喉は、ゴボッガボッとおかしな音を立てている。
呼吸困難の恐怖に少年は目を見開き、胸を、喉を掻き毟っていた。
原因不明の病気と言われても、おかしくない姿だ。
「その病気、伝染るとか言ってたっけ」
男は、どう対応していいのか分からずに困惑しているリーダー格の少年に、ニヤニヤと笑いかける。
「友達だろう? 病院にでも連れていってやれよ」
男は、まだ笑いが止まらなかった。
少年は、もう限界に近い。
何とかして息をしようともがく少年を見下ろして、あとの二人は顔を見合わせると、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「べつに、友達なんかじゃねーよ」
二人は地面をのた打ち回る少年を気味悪げに見ながら、互いを突つき合うようにして、
「い、行こうぜ」
と、言って、慌てて路地から駆け去ってしまった。
男の顔から、笑みが引く。
友達を、仲間が苦しんでいるのもそのままに、彼等は他人を見捨てても平気でいられるのだ。
それが人間なのだ。
冥府にいた時、男が殺した連中は、自分が殺される直前まで仲間のことを気遣っていた。
それが仲間でなく、たまたま居合わせた者同士であっても、他者の身を気に掛けるのが、妖かし一般だと男は思っていた。
その一般は、人間には当て填まらないらしい。
それと気付くと男は、むかついてしょうがなかった。
これがムカつくという感情かと男は思いながら、足元で痙攣している少年を見下ろした。
男が力を使った為に、気管をコーラが玉となって塞いでいる。
男は、苛立ちも露わに少年の胸を蹴り上げた。
その反動で、気管を塞いでいた玉は喉から飛び出し、少年は気を失った。
男は、倒れた少年をもう一顧だにせず、路地を逆戻りして、自分が出てきたのとは違う横道を見つけると、その道を折れた。
人目を避けて男は、人気のない路地を選んで、ただひたすらウロウロしていた。
迷子になるという感覚も、知らない場所を歩いている不安感も何もない。
男にとって、路地は全て路地であったし、街もまた全て街であった。
それだけでなく、街という容れ物に入った人間達も、顔のない一括りにできる類のものでしかなかった。
男は暗い空を見上げて、ぼんやりとする。
どうして自分は、一夭なのだろう、と。
こんなに沢山人間がいても、やっぱり男は一夭だ。
死神と怖れられた冥府にいた頃と、変わらない。




