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死神佐平 10

 男が店内の空気を掻き乱してやったことで、人々の精神は突如バランスを崩し、心と身体の均衡が崩れてしまったのだ。


 いい気味だと男は、ほくそ笑んだ。

 

 男は、騒ぎになって身動きがとれなくならないうちにと、何喰わぬ顔で店を出る。


 食べ物に毒でも混入していたかと、店側が慌てて救急車を呼んだが、詳しい検査をしても、とうとう原因は分からなかった。

 

 十分ほどした時には、野次馬や救急隊員などで店の周囲はごった返していたが、その時には男はとっくにその場を離れた後だ。


 サイレンの音はずっと遠くで、その時点では男は、自分のやったことが原因だとは思いもしなかったのである。


 とは言え、してやったと男が気分良くしていられたのも、最初のうちだけだ。

 男の歩みは少しずつ鈍くなり、ついには止まってしまう。


 店で買った食べ物は、結局、食べかけのまま放ってきた。

 人間としていることは同じだ。

 

 男には、何の用もない無駄なものが、胃には詰め込まれている。

 それが、重くてたまらなかった。


 実際に重いと言うより、自分のしたことの愚かさのあかしのようで、それが不愉快だ。


 吐いてしまいたいと思ったが、男は吐かなかった。

 吐けば、それこそ無駄になってしまうと思ったからだ。



 男は、人込みを嫌って路地をブラついていた。

 薄暗い中、喧騒から離れていると、ようやく気分が落ち着いてくる。男が、ふと横道から出てみると、そこは路地の入口に近い場所だった。

 

 路地の出入口に三人の少年達が、立ったり座ったりの思い思いの格好で、時折携帯端末を触る以外喋るでもなくたむろしている。


 男は人の姿を目にすると、思わず足を止めてしまった。それが彼等に、いい鴨だと思わせる要因になったのかもしれない。


 男の見た目は、痩せたひ弱そうな外見だ。

 数秒後には男は、三人の少年に囲まれて、壁に背中を押しつけて身動きのとれない状態に追い込まれていた。


 三人は十代半ばから後半、いっていても二十歳を越えているかいないかといった年頃にしか見えなかった。

 少年犯罪とか、カツアゲなどという言葉が、男の頭の中に浮かぶ。


 別に、恐怖は感じない。



「金貸せや」

 リーダー格らしい少年が、煙草を指の間に挟んだまま、煙を男の顔に吹きつけるようにして、そう言った。


 隣にいた少し小柄な少年が、ズボンのポケットから出したナイフの刃を開いて、男の前にちらつかせた。

 もう一人は、缶コーラーを飲みながら、ニヤニヤと意味もなく笑っている。


 彼等には、これも一種の遊びに過ぎないのだ。

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