表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/312

死神佐平 4

 人間が調べても、男が食い殺した者の死体は、ただ突然死として片付けられることだろう。

 外傷どころか、何一つ原因が見つからないのは、男が人間の命を吸いとるからである。


 男は、死神だった。

 妖かしという、生き物だ。


 獣でもない、人間でもない、妖の者。


 冥府には、そのような妖かしが、何億何兆と住んでいる。


 不老不死の者、水の中で暮らす者、治癒力が強い者、大きい者、小さい者、姿が見えぬ者、空を飛ぶ、またはかける者、地面の中で暮らす者。

 

 それぞれが好き勝手に、己の本能の求めるままの暮らしている。


 男も、好き勝手に暮らしていた。

 それがある時、罪夭ざいにんとして追い回され、男は永久凶悪犯罪者として、書物の中に閉じ込められたのである。


 死神である男は不老不死で、決して死ぬことはない。

 傷を受けることも、苦しむことも、病気になることだってない。


 不老不死の妖かしに、死刑は有り得ない。

 無期刑であれば、永遠だ。


 神名帳しんめいちょうに封じ込めるというのは、その為に考え出された罰則である。

 神名帳に閉じ込められた妖かしは、妖気を吸いとられて、絵と成り果てるのである。

 軽犯罪は別として、重犯罪から凶悪犯罪となると、神名帳に閉じ込められる。


 男は、永久凶悪犯罪者であった。


 永久というのは、絵となってのちも、犯罪者として名前が残ることを言う。

 

 永遠に彼の名前は、犯罪者の名前として語り継がれていくのだ。

 


 窓の外が薄暗くなると、男はようやく起き出した。

 男は顔を濡らして紛い物のヒゲを剃り、髪を濡らして櫛を通した。


 コインランドリーから返ってきていた、シャツとジーンズに着替えた。

 身長は似たようなものだったが、ズボンの足の長さが少し足りない。

 

 それに、男の方が持ち主より、少し痩せているようだ。

 

 男は家のカギと財布だけ持って、ケータイはそのまま放っておいた。男には、必要ないものだからだ。

 それに、冥府にある水鏡を思い出させるのが、男は嫌だった。


 声を聞くことも姿を見ることもできても、決して触れられぬ。


 虚像や、実際に声の振動を感じとれないものなど、男は欲しくない。


 男が欲しいものは、実際に触れ、匂いを嗅ぎ、空気を振るわせるものたちだった。

 


 男はアパートを出ると、歩いて十分かからない最寄り駅へと向かった。

 初めての場所でも、迷うことはない。


 男は死神で、人間の命――生気と言い換えてもいいが――を、吸いとることができるばかりでなく、生気と一緒にその人間の記憶まで奪うことができるからだ。


 人界は初めてだったが、途惑うことはない。

 見たことがない物、知らない言葉であっても、生気を抜きとったあの若者が知っていた物であれば、何かはちゃんと分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ