死神佐平 4
人間が調べても、男が食い殺した者の死体は、ただ突然死として片付けられることだろう。
外傷どころか、何一つ原因が見つからないのは、男が人間の命を吸いとるからである。
男は、死神だった。
妖かしという、生き物だ。
獣でもない、人間でもない、妖の者。
冥府には、そのような妖かしが、何億何兆と住んでいる。
不老不死の者、水の中で暮らす者、治癒力が強い者、大きい者、小さい者、姿が見えぬ者、空を飛ぶ、または翔る者、地面の中で暮らす者。
それぞれが好き勝手に、己の本能の求めるままの暮らしている。
男も、好き勝手に暮らしていた。
それがある時、罪夭として追い回され、男は永久凶悪犯罪者として、書物の中に閉じ込められたのである。
死神である男は不老不死で、決して死ぬことはない。
傷を受けることも、苦しむことも、病気になることだってない。
不老不死の妖かしに、死刑は有り得ない。
無期刑であれば、永遠だ。
神名帳に封じ込めるというのは、その為に考え出された罰則である。
神名帳に閉じ込められた妖かしは、妖気を吸いとられて、絵と成り果てるのである。
軽犯罪は別として、重犯罪から凶悪犯罪となると、神名帳に閉じ込められる。
男は、永久凶悪犯罪者であった。
永久というのは、絵となってのちも、犯罪者として名前が残ることを言う。
永遠に彼の名前は、犯罪者の名前として語り継がれていくのだ。
窓の外が薄暗くなると、男はようやく起き出した。
男は顔を濡らして紛い物のヒゲを剃り、髪を濡らして櫛を通した。
コインランドリーから返ってきていた、シャツとジーンズに着替えた。
身長は似たようなものだったが、ズボンの足の長さが少し足りない。
それに、男の方が持ち主より、少し痩せているようだ。
男は家のカギと財布だけ持って、ケータイはそのまま放っておいた。男には、必要ないものだからだ。
それに、冥府にある水鏡を思い出させるのが、男は嫌だった。
声を聞くことも姿を見ることもできても、決して触れられぬ。
虚像や、実際に声の振動を感じとれないものなど、男は欲しくない。
男が欲しいものは、実際に触れ、匂いを嗅ぎ、空気を振るわせるものたちだった。
男はアパートを出ると、歩いて十分かからない最寄り駅へと向かった。
初めての場所でも、迷うことはない。
男は死神で、人間の命――生気と言い換えてもいいが――を、吸いとることができるばかりでなく、生気と一緒にその人間の記憶まで奪うことができるからだ。
人界は初めてだったが、途惑うことはない。
見たことがない物、知らない言葉であっても、生気を抜きとったあの若者が知っていた物であれば、何かはちゃんと分かった。




