河童与之助 20
姿を晒さないことで、体が弱いか、登校拒否児と見せる腹づもりとしていたのだ。
まさか宮も、小学校に通ってまで人目を欺くほど暇ではない。
登校拒否なら珍しくない。陰口の対象になるぐらいで、別に異常だとは誰も思うまい。
宮や銀丸が気を付けなければならないのは、人間らしからぬ振る舞いをすることだけだ。
青山と相馬の刑事二人が、宮と銀丸を訪ねて縁起堂に来たのは、犯人が捕まって三日後の、土曜日の午後のことだった。
二人は、正面の店まで回って来なかった。
店の横手にある玄関のベルが鳴らされ、銀丸はビクつきながら座敷を立った。
近所の回覧板かセールスか、それとも縁起堂主人夫婦の知人か。
人が訪ねてくる度に、銀丸は神経を擦り減らしていた。
銀丸は、繊細で神経が細いが、その割りに図太い部分もあるようだ。
居眠りをしたり、大変な時に限って気を失ったりするからである。
銀丸だけでは不安な為、宮もそっと玄関を覗くと、慌てて辺りを片付けて、和綴じ本や巻物をすっかり押し入れに隠したのだった。
「いやー。この度は、ご協力まことに有難うございました」
玄関には、銀行員のような愛想笑いを浮かべた青山と、もう一人の相棒が立っていた。
銀丸は、あーだのえーだのと、意味不明なことを呟いている。
誰だったか、すぐには思い出せなかったのだろう。
宮が銀丸を突ついて、連れ立って玄関までいき、二人組の刑事を家に招き入れた。
青山も相馬も初めから、上がっていくつもりだったようだ。
二人の相好が崩れているのは、銀丸と宮に会えて嬉しいからではない。
犯人を挙げた手柄は、青山と相馬の二人が一人占めしたようなもので、警視総監賞ものだったからである。
青山も相馬も、宮の暗示もあって、犯人に目星をつけたのは自分の今までの経験と勘と、発想の転換であったと上司には報告していた。
しかし、微かに良心が咎めていたこともあったのだろう。
例え、それ以外に下心があったにしても、青山と相馬が訪ねて来たのは、宮と銀丸にほんの少しでも報いたいと思ったからである。
「司君には、お土産があるんだよ」
相馬は、御丁寧にもケーキの箱を手にしていた。
銀丸は、咄嗟に御丁寧なことでとも、そのような気遣いは要りませんのにとも、普通の大人であれば見せるであろう、社交辞令を口にする余裕もなかった。
ただ、相馬が宮の手にケーキの箱を手渡すのを、ホケーッと見ていただけである。
しっかりした宮の方が、思わずいつもの調子で、
「ああ、これは、これは。手数を掛けて済まぬな」
と、言ってしまったものだから、相馬も青山もポカンとした顔になった。
宮も、しまったと思ったらしい。




