河童与之助 19
宮が有能で仕事熱心なのは、もう分かりきったことであるが、さて銀丸の方である。
色々と宮が忙しくしている時、銀丸には実害の少ない縁起堂の店番を任せてあった。
日常生活の全ても、宮がとりしきっている。
その方が間違いないと、宮が踏んだのだ。
銀丸に掃除や食事の用意を任せれば、その度に何か一騒動起きるのが目に見えているからである。
店番と言っても、殆どやることはないので、銀丸はぼんやりとテレビを眺めているか、新聞か本を見ているのだが、気が付くといつの間にか眠ってしまっているのだ。
それでも、縁起堂には常連客もついていたし、それなりに繁盛しているのであった。
とは言え、忙しくなるのは、ほんの暫くの間に集中している。
保育などで預けられていない幼児が縁起堂に駄菓子を買い求めにくるのは、親の買い物の帰りで午前中だし、小学生は学校帰りの夕方と決まっている。
カリントウの袋などを年寄りが買いにくるのは、朝の早いうちが多い。
この近辺の子供には、スーパーの駄菓子コーナーより、小さな店一杯に菓子がひしめき当て物などもある縁起堂が魅力的なのだ。
駄菓子は百円で、うまくすれば両手では持てぬほども買える。
算数の計算よりはよほど早く、しかも緻密に子供達は、駄菓子の値段と顔を突き合わせて、計算することを覚えるものだ。
縁起堂に、子供達が小銭を握り締めて買いにくる姿は、昔も今も変わらない。
縁起堂の主人夫婦が湯治に出かけて、あとを息子がやっているということは、近所によく知られるようになった。
店番をしている息子役の銀丸は、子供達に、若い方のおっちゃんと呼ばれて、すぐに覚えられた。
銀丸は頼りなくてぼんやりしているが、それが子供達の親しみを誘うらしい。
若い方のおっちゃんは何で離婚したのとか、何でずっと家に帰ってこなかったのとか、子供ながら大人がタジタジとしてしまうような質問をぶつけてきたりする。
銀丸が、おっちゃんと言われて兄ちゃんと呼べと否定しなかったので、子供らには、若い方のおっちゃんですっかり定着してしまったのだった。
人気があると言っていいだろう。
それと子供達の親、若い母親達の間で、銀丸のことが噂になるのも早かった。
若い母親達は、子供をだしに銀丸を見にくるのだ。
遊び人風の見た目と、頼りなくぼんやりしたところ、それでいて実直で素直な面と。
銀丸は、母親勢の母性本能をくすぐるらしい。
宮は、縁起堂には顔を出さない。
いつも、襖で隔てられた見えない場所にいる。
こちらにきて日が経たない内は構わないが、長くなっても小学校に通う手続きをしなければ、怪しまれるであろうことも、宮は計算済みであった。




