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河童与之助 16

 銀丸しろがねまるは頼りない様子で、宮が指差す度に、キョトキョトと目を彷徨さまよわせてはぁと言った。

 本当に分かっているのか、甚だ不安になる様子である。


 宮は少し迷ったが、

「耳の裏も足の裏も、ちゃんと洗うのだぞ」

 と、念を押した。

 

 宮には、幼い子供ではないのだからという思いがあったのだが、銀丸は急に赤面すると、慌てたように、

「まさか、そんなことも、私は寝言で言ったのですか?」と、言った。

 

 宮は、暫く何も言えなくなった。

 黙って、銀丸を見つめるばかりである。

 

 銀丸は、訳が分からずに困惑げにしている。

 

 銀丸一人で風呂を使わせれば、シャンプーを撒いたり石鹸を湯船に落としたり、滑って転んだり。

 何をするか分かったものではないと、ようやく宮も気付いたのだ。


「一緒に入った方が、よさそうだな」

 心の中で宮は溜め息を吐くとともに、そう結論づけた。

 

 宮に世話は要らなくとも、銀丸には世話が必要なのである。

 

 宮の苦労は、まだまだこれからと言えた。


【人界では与之介の事件、どのように結末がつきましたかと言うと、ここにこれ、その時の瓦版がございます。

 

 犯人として捕まったのは、独り身の三十才の男にございました。

 

 この男、幼い頃から実の母に折檻を加えられ、その時母親にひっしと睨まれる為、人の目を殊更怕れるようになったとか。


 大人になり、子供の甲高い声を聞く度にひどく苛立つ自分に気付いて、男は訳もなく子供に暴力を振るってしまう己の母の血が流れているのではと、怖れるようになったそうにございます。

 

 二十代の前半に実際に、腹立ちにまぎれて、近所の子供を突き飛ばして怪我を負わせてからは、男の怖れは本物となり、その為、結婚にも踏み出せなかったとのことでありました。



 この男、与之介の起こした事件の知らせを聞くと、己がやったと思い込んだほどにございます。



 宮は、この男の心と、実際に起きた事件にほんの少しだけ手を入れて、人間達に全く分かり良い事件と、仕立てたのでございました。

 

 水界に引っ張り込んで溺死させ、両目を刳って食べたという与之介の起こした事件は、水溜りでの溺死、両目を刳られているという異常且つ超常的な怪奇事件として人の目に映りましたが、結局、迷宮入りとはならず、精神的に追い詰められた心の病んだ男の犯行となったのでございます。

 

 この男、事件を起こしたと思い込んでからは、精神の安寧を手に入れることにあいなりました。

 

 ずっと揺れた状態におりましたから、実際とても危険な状態にあったのでございます。

 現実に事件を起こした訳ではありませんが、罪を犯したと思うことで、男はしっかり自分の足で立つ結果となったのでありました。

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