河童与之助 15
金丸は、自分の末弟の不始末にすっかり憔悴していて、銀丸が何かやらかしていないか、そればかりを宮に聞いてきた。
銀丸が今もまた、気持ち良さそうに気を失っていることは、宮は言わなかった。
かわりに、世辞ではなく銀丸は良い男だと誉めた。
ただし、単純――では言葉が悪いので、素直と言うが――その性質を誉めただけで、使える者だという意味で言った訳ではない。
それでは、嘘になってしまう。
それと金丸に、銀丸とうまくやっていけそうだと伝えるのも、宮は忘れなかった。
銀丸と人界でうまくやっていくには、ひとえに宮の努力にかかっていると言っていいだろう。
銀丸をうまくフォローし、リードしてやらねばならない。
宮が事後処理をしている間、こうして銀丸は眠っていたのだが、宮が風呂の様子を覗きにくる気配で、さすがに目が覚めた。
目覚めて身体を起こすなり銀丸は、くしゃんとくしゃみを一つやらかした。
「風邪を引いたのではないだろうな?」
宮は、銀丸の身体を心配する。
銀丸が、またしても迷惑をかけたことを知って、アワアワと何か言おうとしたが宮は「良い良い」と、銀丸に何も言わせなかった。
銀丸に悪気はない。
銀丸が起きていても寝ていても、どちらにしても少なからず迷惑を被ることが分かっていたので、宮は気にしないことに決めたのだった。
「水呑童子が、湯を立ててくれてある。先に其の方が使え。私は、まだ幾つか仕事があるからな」
宮は、擦り硝子の引き戸を引いて、風呂場に入った。
靴下を脱いで、裸足になるのも宮は忘れていない。
宮は簀子を洗い場に出し、風呂蓋をとって湯の温度を確かめた。
「宮様の湯殿の世話なら、私が」
銀丸が、風呂場の入口まで来て言った。
縁起堂にある内風呂は、建物よりは少し新しい。
あとで増築されたからだ。
築三十年ほどだろうか。
内風呂ができるまでは外風呂で、銭湯を使っていたのだろう。
ここの風呂は、最近のマンションの風呂と比べれば、広いぐらいであった。
しかし水ノ宮の内殿にある御湯殿は、広さ約五畳ばかりもある。
無論、比べるものでもないだろう。
人界での尺度で言えば、五畳は十畳以上の広さに当たる。
本来なら湯女などが侍って、宮の身体を洗ったりするのであるが、それを宮は面倒がって自分で済ませてしまうのだった。
「いい。向こうでも、他者の手は借りてはおらぬ」
宮は、洗い桶や椅子を、簀子の上に手際よく並べていく。
そうしながら銀丸に、指示を与えてやるのも忘れなかった。
「これがシャンプーで髪を洗うもの。これが石鹸、これが身体を洗うタオル。バスタオルと着替えは、出しておこう。ブラシはこれに」




