河童与之助 13
「謀かるでは、言葉が違う。謀かったのではなく、策を用いただけのこと。あまりにも単純な策をな」
宮は、待機していた水呑童子達に合図をした。
水呑童子達は、燐光を発する人型を、今はとっている。
水呑童子達は宮の合図を受けて、四方八方から一斉に、与之介に向かって細い紐のような物を投げつけた。
紐――捕縛縄は腕や足に絡み着いて、与之介は身動きを封じられる。
「くそう。俺のどこが悪いのだ」
与之介は、辛うじて動かせる顔を天に向けて、そう叫んだ。
「分からぬことが既に問題であろう。そんなあまりにも簡単なことがな」
宮は、今はとても悲しそうな顔をしていた。
なぜ分からぬ、なぜ気付かぬと、宮も叫びたいぐらいだったやもしれぬ。
宮が手の平を前に突き出すと、その前の空間がまるで水面のように渦を巻き、中から一冊の和綴じ本と、筆が現れた。
冥府から、神名帳を召喚したのだ。
宮は神名帳のある頁を開くと、与之介に向かって突き出した。
そして、罪状を読み上げるとともに、筆を使って神名帳にその言葉を認める。
与之介はその間、ずっと聞くに耐えない罵詈雑言を撒き散らし、宮を罵り続けていた。
「穴抜けの罪と、脱書の罪、そして人間の子供を二人も殺めた罪で其の方を、永久凶悪犯罪者として、再び芳名する」
筆使いも流麗に、最後に河童子の与之介の名前を神名帳に記し、宮は神名帳を空に向かって投げ上げて、叫んだ。
「捕縛」
キェーッという叫びを最後に、与之介の姿は神名帳に吸い込まれて消えた。
役目を終えた神名帳が落ちてきたところを宮は掴むと、神名帳全体に、十文字に紐を結わえる仕草をして、封印を施した。
その途端、水呑童子の衛士次官が、黒塗りの保管箱を持って近付いてくる。
神名帳を箱に収めて蓋をし、更に紐で括り終えると、ようやくその場の緊張は解けた。
衛士次官は一礼すると、数名の水呑童子を警護に連れて、その場から姿を消した。
間道を伝って冥府へと帰り、河童子の与之介の封じられた御書を、御書蔵に収めてくるつもりなのだ。
罪夭本夭を護送する場合であれば間違いもあるが、御書なら暴れたり面倒を起こしたりはしない。
もう、まず心配はないが、それでもやはり御書蔵に安置されるまでは、心配なものである。
宮は、残りの水呑童子達に、暫く休んで構わないと指示を与えようとしたが、その前に、新たに水呑童子達に手伝って貰わねばならぬことができそうだった。
銀丸は、慣れない人界に、捕り物の現場にと、ずっと強い緊張をしいられていたに違いない。




