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河童与之助 12

 檻に閉じ込められた者は、キェーッとこの世のものとも思われない叫び声を上げた。 

 河童子かわどうじの与之介である。

 

 与之介は檻の柵を握りながら、無念げな声を上げた。

「こ、これは。罠だったのか」

 与之介が力の限り柵を揺らしても、檻はビクともしない。

 

 河童子は、身長は百二十センチほどで、骨と皮ばかりのような外見をしている。

 顔は平べったく、凹凸がない。

 鼻の穴だけで鼻はなく、口は裂け目のようだ。


 目は、カエルのような真円をしていた。カエルの瞬膜と同じで、瞼は下から上に閉じる。

 

 一目見ただけで、人が思い描く河童の姿と、実際の河童子が違うことに気付くだろう。

 まず、全身に茶色の毛が生えていて、ちょうど水に濡れたカワウソのように見える。 


 手や足には鋭い爪――攻撃用ではなく、急流などで石や地面に爪を食い込ませる為のものだ――と、水掻きがある。

 河童子は、腕や足の様子から、カワウソと言うより猿と間違えられるかもしれない。



 与之介はとり乱した様子だったが、静かに佇んでいる宮にハッと気付くと、腹立ちも露わに柵を揺さぶったのだ。

 動物園で、檻を揺さぶる類人猿の姿に、よく酷似していると言えよう。


「しまった。水宮ではないか」

 与之介は、柵を叩いたり噛みついたりするが、元より壊れるものではない。

 

 いや、千年前であればまだしも、与之介も長い間、神名帳しんめいちょうに閉じ込められて力が落ちている。


「まさか、貴様が人界に来るとは」

 与之介は、人界にさえ逃げれば安全と高を括っていたようだ。

「貴様がおらぬことを知ったら、冥府の奴らは今こそと暴れることだろうに。既に冥府は滅茶苦茶かもしれないぞ」


 その言葉に宮は、初めて与之介に声を掛けた。

「知らせるような、愚かな真似をすると思うか?」


 ありきたりのTシャツと半ズボン姿の男の子ではなく、そこにいるのは間違いなく、冥府の最高統治者である、水宮司その人であった。

 

 宮は、幼い子供ではなく、深い叡知を持つ、不老不死の妖かしなのだ。


「忌々しい。一度ならずも二度までも、貴様に謀かられるとは」

 以前に与之介を捕縛したのは、宮である。

 その千二十二年前と今も、宮は何一つ変わっていなかった。

 

 与之介も、神名帳に封じられていた為に見た目は変わっていない。

 ほんの少し話を聞いただけでも、与之介が内面に一つも変わりがないことを、宮は見抜いていた。

 

 宮の顔には、温かみの破片かけらもない。

 

 与之介に与えるゆるしはないと、宮は恩情は見せなかった。

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