河童与之助 11
そこを通って、別の場所から別の場所へと、水に住む妖かし達は移動することができる。
但し、水妖ではない妖かしは、水界では生きられない。
狐の妖かしである水呑童子達は、水の中で息ができる丸薬を口にして、水界での捕り物に臨むのである。
宮は、銀丸を嗜めるように、
「人界で、宮様ではな」と、言った。
銀丸は困惑げに、何と呼べばいいのかと聞いてくる。
「司と名乗ったのだから、司と呼び捨てで呼ぶしかあるまい。私は、其の方の子供であるからして」
宮は、銀丸をからかってそう言った。
銀丸は、その言葉に絶句して、思わず立ち止まってしまったほどだ。
暫くすると、小走りで宮に追い着くと、
「よもや、私のことをからかっておられるのでは?」
と、いささか遅い反応を見せた。
宮はちょっと笑って「少しな」と、答える。
銀丸が「そんなぁ」と、声を上げた時、ようやく実際の現場に辿り着くことができた。
建て壊しのあったばかりのにわか空き地には、まだ草も生えていない。草が生えるより先に、また新たな建物が建てられることだろう。
ここで犠牲者は、ポチャンと魚の跳ねるような物音と、生臭い匂いを嗅いで、庭に小さな池でもあって、魚がいるのだろうかと、覗きにいったのだ。
犠牲者は、同じ住宅街にある、ピアノ教室からの帰りだった。
物騒な世の中とは言え、親は家から近いこともあって、まさか何か起こるとは思っていず、行き帰りは子供に任せていたようだ。
もちろん、この空き地に池などない。
あったのは、落ちていたコンクリート片の凹みに、溜っていた水だけだ。
その水は、直径五センチ、数センチほどの深さがある。
もちろん、その程度の水で溺死のしようがない。ただ、そのような水であっても、水界の入口にはなるのだ。
入口、つまり出口でもある。
「さてと、ようやく本職の方にとりかかることができる」
宮は、銀丸に下がっているように言った。
妖気と瘴気が近付いてくる。
待機していた水呑童子達の緊張も高まる。
突然、コンクリ片から、大量の水が溢れ出してきた。
水は宮の太股ほどもあり、その勢いは宮を押し流すかに見えた。
宮は一声、
「水牢」
とだけ、叫んだ。
溢れた水は流れてくることなく、まるで紙のように上に巻き上がって、円柱のような形になった。
円柱の中に、何かの影がある。
水牢とは、読んで字のごとく、水で出来た牢屋である。
上と下以外の周囲は柵になっていて、どこから見ても、それは円柱型の檻であった。
その水製の檻は、高さ一メートルほどのところに浮いていた。




