河童与之助 10
銀丸は変化が不得手で、袴に隠れるのをいいことに、しっぽを出したままにしていたというのである。
宮は知らないことだが、銀丸は警吏として番をしている途中に、居眠りなんぞする罰当たり者だったのだ。
しかも居眠りをして狐の姿に戻って、着ていた服の中に埋もれていたというのである。
服の中で眠っているとは分からずに、銀丸が服だけ残して消えたと、騒ぎになったこともあるのであった。
「まあ、人前で四つ足で走ることと、後足で身体を掻いたりせぬようにな。あとは、私が気を配っていよう」
宮は、銀丸の失態は、全て自分でかぶるつもりでいた。
そもそも銀丸が、十妖をとり逃がしたことからして、宮がその失敗を償う面倒を蒙っていると言えた。
銀丸がさすがに傷付いたように、いくら何でもそれはあんまりな言い様ですと、宮に泣きつく。
「人の形をしている時には、四つ足で走りませぬ。よけい走りにくいではありませぬか。走りかければ、それと気付きます」
できれば、走る前に気付いて欲しいと思う宮であった。
通りを歩く宮と銀丸以外に人気がないばかりでなく、何の物音も聞こえてこない。
住宅街の真ん中とはとても思えない。
道路を照らす街灯もその通りだけ、なぜか暗いのである。
邪魔が入らぬよう、結界を張ってあるのだ。
今この一帯は、姿形は同じでも、全くの別世界となっているのだった。
突如として宮と銀丸の周囲に、ポッポッポッと、青白い燐光が幾つも点った。
「宮様。もうすぐ与之介が、こちらに」
声は、衛士次官のものである。
青白い人魂が、スッと螢のように飛んで、宮達を先導した。
これが、人界での水呑童子達の姿である。
水呑童子達は、人界では人型も狐の姿もとっていない。
昔であれば狐の姿で動くこともできたが、今であれば街中を狐が歩いていれば、目立つことこの上ないからだ。
この青い燐光は、狐火と人界では呼ばれるもので、普通の人間の目には見えない。
「宮様。ついに、ですね」
銀丸が、興奮を隠せない様子で言った。
死体が見つかったのは、さっきの場所だが、犠牲となった子供が水界に引き込まれたのは、違う場所である。
宮が向かっているのは、実際に引き込まれた場所の方だった。
こちらに向かう途中、衛士次官とのやりとりの中から、宮が決めたことだ。
水妖達が住む、水界と呼ばれる場所が、冥府にも人界にもある。
海でも川でもない。
海や川だけでなくあらゆる水のある場所と、水界は繋がっている。
水界は、水しかない広い世界ではなく、水脈や洞窟のような感じになっている言えばいいだろうか。




