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冥府 7

 男は、当たり障りのない話で、お茶を濁すことにした。

「この度、末の弟が、参内さんだいを許可されまして」

 いま宮に言わなくても、そのうち分かることではある。

 年度末にその年の登用者の名簿を宮は検討し、その者達の上官達の言葉も吟味して、新年の初議はつぎの席に加わえる功労者を、自ら選ぶのである。

 その時に、男の弟が新規登用者として名簿に載っていることを、宮なら気付かぬ筈がない。

 ただし末弟がその時まで、宮仕えを辞めて(辞めさせられて)いなければの話ではあった。

 

 登用試験は、半年に一度行われる。

 毎回、百夭ひゃくにんからの者が試験を受ける。

 合格者は二夭に一夭で、狭き門ということはないだろう。

 登用試験よりも、昇級試験の方が難しい。

 上に立つ者は、あらゆる知識に通暁していて、鋭い判断力を持った宮の意向を、できる限り早く悟らなければならないのである。

 言われたことだけやればいい下っ端役夭とは違って、宮を煩わせないように、宮の一言から宮の意思を汲むことが、上級役夭には必要となってくる。

 しかし水ノ宮での仕事は、厳しく大変なこともあり、耐えられなくなる者も多かった。

 捕物とりものの時、命を落とす者もいる。

 男の父親が、そうであったように。


 水ノ宮は、慢性的な人手不足にあった。

 五千夭の者を維持するのも大変だが、だからと言って、登用者の質を落とすことなど問題外である。

 そんなことをすれば、水ノ宮の仕事に支障が出てくること間違いない。

 これまで、水ノ宮に仕えている者で、罰則対象となった者はいない。どのような下級役夭であっても己の仕事に誇りを持ち、宮仕えの者としての心意気を持っていた。

 だからこそ脱獄の手伝いをする者や、賄賂まいないを受けとるような者が出てこないのである。

 それどころか、自分の一族内に罪夭が出たりすると、それを苦に役目を退き謹慎したり、腹を切って己の赤心の証とするような潔癖な者が多かった。

 

 宮は、臣下の水ノ宮への病的なまでの忠誠心を見るにつけ、己がしっかりしなければと思うのである。

 それでも、仕えてくれる者達の心意気は、宮も誇りに思っていた。

 

 宮は男の言葉に、にっこりと微笑んだ。

 その年頃にしては随分老成した笑みだったが、それもその筈。

 宮はこの男の曽祖父よりも、遥かに年経ているのだ。

 男とて、見かけ通りの年齢ではない。

 冥府の者には、この宮のような不老不死者は多い。

 男の一族は、不死ではないものの、長命の種族である。あるていど年をとると、それ以上老いない種族もあるが、男の一族は緩やかに老いてゆく。

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