河童与之助 4
年のいっている青山の方が、しろがねが銀の呼び名であることを知っていたらしい。
今では、あまり用いない言葉だろう。
「しろがね? ああ、銀って言うんですか。銀だけなんですか?」
宮とともに人界で、宮の手伝いをすることになった狐の妖かしである銀丸は、失神しそうなほど緊張していた。
人間達に怪しまれてはいけないと、それだけで一杯の様子だ。
銀丸は、荒い息遣いをしながら、
「いえ、銀次郎です」と、答えた。
銀丸の唇の端は、プルプルと震えている。
そちらの方がよほど怪しく見えるが、刑事達は、銀丸が不愉快に思っているのだと勘違いしてくれたようだ。
但し、宮がもし銀丸の手を握っていなければ、銀丸はその場から逃げ出してしまったかもしれない。
銀丸は、ここに来るまでに乗った電車で、沢山の人間を一度に前にして、すっかり心身ともにすり減っていたのである。
今度は、人間と話をしなければならなくなり、銀丸は、いつ倒れてもおかしくない状態であった。
それを知っているのは、宮と銀丸本人だけである。
「お兄さんがいれば、定めし金四郎さんですかね」
青山刑事は、某時代劇と引っ掛けて軽い冗談のつもりで言ったのだが、その冗談が冥府生まれの銀丸に通じる訳がない。
銀丸は一瞬、どうして分かったんだろうと訝り、驚きながらも、
「確かにその通りです」
と、神妙に答えたのだった。
但し、金四郎ではなく、金丸というのが本当である。
冗談が冗談にならなかった為、青山は言葉に詰まってしまった。
「水宮銀次郎さんと司君」
相馬が、もう一度二人の名前を確認した後、自分達が刑事であることを、身分証明書を見せて示した。
相馬は、結構子供好きな性質らしい。
宮の前に、大きな背をこごめて、宮と目を合わせた。
「何してるのかな。こんな所で、こんな時間に。ここは、ちょっと前、怖い事件があった所なんだよ」
子供をだしにする大人のやり口だが、宮はそれでも構わないと思ったようだ。
宮は笑顔を絶やさずに、
「父の、素人探偵に付き合っているのです」
と、ハキハキとして言った。
それを聞くと、相馬は困惑げに立ち上がって、同じように困惑げにしている青山と顔を見合わせる。
「お父さんが、今日の夕方に起こった事件の犯人は、犯行現場から、そう離れていない場所に、住んでいるのではないかと言うのです。事件の手口から、幼児期に虐待を受けた経験がある者。年齢は三十代の前半で、結婚はしていない。親元からは離れて暮らしていて、現在定職にはなく、近所の子供に暴力を振るったとかで、傷害事件を起こしている可能性があるとか」




