縁起堂 29
「人界においての犯罪者予備群の雨滴だ。犯罪を犯す者は、妖かしも人間も、驚くほどよく似ている。己の欲望が、全面に押し出されているという点でな」
宮は衛士次官に、事件の起こった現場付近も含めて、五区から、犯罪者予備群と目される、人間の雨滴を集めてくるようにと頼んだのである。
建物にしろ物にしろ、それらが持つ磁場が乱れる時や、もともと乱れた磁場を持っていることもあるように、人間が持つ磁場も乱れることがある。
そのような時は、人間の周囲に洩れ出している雨滴は安定を欠いて、細かく振動しているものであった。
磁場は、人間の精神状態をよく表している。
精神が乱れていれば、その人間が持つ磁場も歪みを生ずる。
それを冥府の者は、場の乱れと呼ぶ。
この、磁場を構成している粒子は、安定を求める性質がある。精神的に不安定になっている人間は、安定を得る為に両極端な行動に出るものなのだ。
プラスの方向とマイナス方向、どちらかに転ぶのである。
人間というのは、もともと不安定な素粒子を持っている。
多かれ少なかれ、揺れているのが人間だ。
そして揺れを押さえる為に、大なり小なり、何かを選びとっているものなのである。
揺れがあまりにも大きい者は、危険な状態にあると、冥府の者達は見る。
振動が大きければ大きいほど、プラス方向に大きく飛躍もするが、マイナス方向に向かうこともあるからだ。
どちらにも向かう状態の為、マイナス方向に向かった時のことを考えて、危険と見るのであった。
宮は一粒、水に落として揺らして覗いては、また別の雨滴をコップに落とすことを繰り返している。
暫くその作業を行っていた宮は、コップの底に映った映像に、目を止めた。
「ちょうど、良いのがいるな」
それを聞いて、銀丸がコップを覗こうとしたが、宮が本気の顔で止めた。
「見て気持ちのよいものでは、決してない。其の方は繊細だから、倒れてしまうやもしれぬ」
銀丸は、その言葉に怖れをなして青冷めると「や、やめておきます」と、答えた。
ただでさえ理解できない人間の、犯罪者の精神状態など覗けば、気持ちが悪くなり兼ねないと、銀丸も思ったのだ。
「あの、そのようなことをして、一体何をするおつもりなのです?」
銀丸は、宮のやっていることが分からず、そう聞いた。
宮が、まるで面白い悪戯を思いついた子供のような、悪戯っぽい笑顔を見せる。
「言ったではないか。人の仕業にすると」
宮が、銀丸の為に、順序立てて説明してやろうとした時だった。
「筋立てはな」
宮様と、切羽詰まった声で、宮を呼んだのは衛士次官だ。




