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縁起堂 25

「残留妖気から与之介に辿りつけば、それに越したことはないが、それが駄目だった場合、包囲網だが、いい加減せばめたところで、与之介は少し置いておけ。水界すいかいが閉じられて結界が張られたことで、己が追われていることが分かるだろう」


 宮の、与之介を少し遊ばせておけという言葉は、いまいち衛士次官えじのすけには分からなかったらしく、困惑したような顔をした。


 但し、宮の言葉であるから、己に分からぬとも言われた通りにしていれば、間違いがないことを、宮に仕える者達は知っている。


「潜んでふくするか、反対に冥府に逃げ戻るかもしれない。十妖じゅうよう達の中には、ほとぼりが冷める間、人界に潜伏するつもりの者もいるかもしれぬ。間道かんどうの監視と、冥府ないの見回りも、強化させねばならぬ」


 宮の思惑は、余夭よじんに計りきれるものではない。そして、宮は水も洩らさぬ周到さで、物事を進めていく。

 

 宮は「それより」と、おもむろに言って、あることを衛士次官に頼んだ。

 宮の指示を聞いた衛士次官は、やはり困惑げだった。

 宮の意図が分からなかったのは、銀丸しろがねまるとて同じである。

 

 銀丸は、その時は、宮のその指示を、気にもかけなかった。後になって、成程と思っただけである。

 

 とにかく訳が分からないものの、言われたことはやるつもりだという意思表示を見せると、衛士次官は、シャボン玉から消えた。


 次の瞬間、シャボン玉はパチンと割れてしまう。

 宮は、冥府も人界の様子も、それほど案ずることはないと判断をつけたからだ。

 

 宮は、水切りカゴに溜っていた水をシンクに流して、乾かす為に逆さにして置いた。 

 今度は、宮は銀丸を真っ直に見つめると、先ほどの話へと戻った。


「人間などどうでもいいと言うのでは、それでは人と同じになってしまうぞ。人間が愚かであるから、それ相応の扱いをしても構わぬと言うのでは、自分達以外の生き物より人間の方が価値があると思っている人間の、他の生き物達への仕打ちと、同じになってしまう」


 銀丸は、その言葉を聞いた途端、恥ずかしさで一杯になった。


 以前に、人間などどうでもいいと兄に向かって言った時、だからそんなことは言ってはならぬと強く叱られたのだと、銀丸はようやく気付いたのだ。

 銀丸は、いたたまれなくなって、宮の顔をまともに見ることができなくなった。


「私は、本当に愚かです」

 銀丸は、それだけ言った。

 

 宮は「銀丸」と、真名で直接呼んで、顔を上げるように促した。

 顔を上げた銀丸の目に、宮の優しい微笑が広がる。

 

 宮は、温かく包み込むような声で「愚かではない」と、言った。

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