冥府 6
宮の夭徳によって、罪を改めた罪夭も多いし、宮仕えを希望する者もまた引きもきらないのだった。
どれだけ宮の徳が高く、下々の者にも目をかけるからと言って、それに甘えてしまっては、宮の苦労がいや増すばかりである。
そのため男は、一侍従如きが宮を煩わせてはならないと、宮付きの侍従の数を制限しているのだ。
男が特に選んだ数名の侍従の中で、幼い子のいる者が一夭いる。
その者は、子が笑うようになりましたとか、歯が生えて参りましたなどと言って、宮を楽しませていた。
そのような些細なことを聞くだけで、宮は嬉しそうにする。
内宮の奥にこもって仕事に追われている為に、色々な者と触れ合う機会が少ないからだ。
小さい子など、この水ノ宮にはいない。
姿形だけで言えば宮こそ、この水ノ宮にいる唯一の童と言えた。
男は、妻帯をしていない。男の兄弟は、四人までが既に世帯を持っている。
長男である男と、下の弟達がまだ片付いていなかった。
但し長男ではあっても、水ノ宮の侍従頭といった名誉ある役職にある男に、母も嫁をとれなどとは言わない。
一族の年寄り連中からも男は、ひたすら宮に仕えることだけを求められていた。
水ノ宮でのお務めが、男の一族では最優先事項に当たる。
務めに響くと言えば、男のように婚期を逃しても、非難されることはない。
もし男に女姉妹があって、その姉妹も水ノ宮に仕えていたとすれば、行かず後家になっても何も言われない。
現に、そうした大叔母が男の一族にはいる。
下から二番目の弟は、今では御書係をしているが、登用試験を受けられる年になるまで、家事手伝いの一切を引き受けなければならなかった。
上の兄が登用を受けるごとに、順々にその仕事が回ってくるのだ。
登用試験に受かるまでは、試験勉強の為に家事手伝いの免除を願い出ても、ただの甘えとしてとり合っては貰えない。
その弟が水ノ宮に仕えるようになって間もない頃――もう八年からなるが――休暇で家に帰った時、后まで寝ていても、母は文句一つ言わなくなったと面白がっていたものだ。
年中無休の宮に合わせて、男も休みをとらないので、実家に帰ることも少ないが、帰れば必ず賓客扱いを受けることになる。
男が、水ノ宮に代々仕えてきた中で、一族の中、最も高い位まで上り詰めたからだ。
そのような家の事情を、宮に話しても仕方がない。
その話を聞けば宮は面白がり、反面胸を痛めることに繋がっただろう。そして、更に彼らの一族に目を配ることになった筈である。