縁起堂 24
人間は、水飲み場で狩りをすることを覚えた肉食獣である。
と言っても、それが水生動物であれば水場こそ狩り場で、そのことは他の獣達も承知の上であった。
水生動物は、水場以外で襲ってくることはまずない。
生き物が、本来与えられた己の領分を越えれば、自然の節理が狂う。
そして、最後には己自身が滅ぶのだ。
「無知ゆえというのも、確かにある。しかし人間というのは、もし自分達より力の劣る者の住む世界があれば、侵略してものにしてしまうものなのだ。それは、侵略と呼ばずに、教化などと言って言葉を繕っているがな」
語る宮の顔は、物憂げだ。
「人の為を旗印にしてはいても、決してそこに住む者達の為にはなっていないのだ。人間は、そこに住む者達を利用しようとしているだけに過ぎない。そして、自分達がそうだから、ある意味人間に勝る部分のある妖かしである我等も、人間と同じことをやって当然だと思っているのだ」
自分達がそうだから、相手もそうだと思っている。
自分達のように、襲いかかってくると。
それが人間なのだ。
宮は、拭き終わった茶碗を、てきぱきと食器棚に片付け始めていた。
相変わらず銀丸は、ボーッと突っ立っているだけである。
「そんな考え方が、あるのですか?」
銀丸は、茫然として言った。
銀丸の素直さを、宮は好ましく感じる。
「妖かしには、理解どころか、思いつきもしない理論だがな。これこそ人間が、私が強くなり過ぎた証明となろう」
そう言いながら宮は「見つかったらしいな」と独り言ちて、衛士次官を呼んだ。
宮は、口は銀丸に、手は片付け物に、頭は考え事に、目は冥府と人界の光景にと、一夭で何夭分もの働きをしている。
シャボン玉に映っていた、人界での動きに何らかの動きがあったようだ。
十個のシャボン玉は、互いにくっつき合って、大きな一つの玉になった。
そこに、少し驚いているらしい衛士次官の顔が映っている。
宮へ報告をと思った途端、呼び出されたことで、宮が動きを見張っていたことが分かったことだろう。
衛士次官は、それを不愉快に思うことなく、宮の目が行き届いていることに感謝したようだ。
「同じ五番目の区域で、二人目の犠牲者がありました。宮様のお言葉に従って、張っていた甲斐がありました。人界の捕り方役の者達より先に、見つけることができました。見つかるのが早かった為に、残留妖気を追うことができております。まだこの区域から出ていない筈なので、水界を閉じて、包囲網を作る第一段階と致します」
宮は、それでいいと頷くと、新たに指示を出した。




