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縁起堂 22

「龍と狐、河童と不死鳥、同一線上で比べられるものではない。龍は力があるが、単純なところがある。狐は器用だが、策に溺れるところがある。河童は水の中では強いが、水からあまり離れられない。力が必要な時には力のある者が、器用さが必要とされる時には器用な者が、己のできることをすればいい。だから、誰が上でも下でもない。力では龍に劣っても、狐は器用だ。それぞれが素晴らしいのだ。それぞれが大切なのだ」

――しかし、人は。

 そう言って宮は言葉を途切れさせ、首を横に振った。

 

 宮は、人は違うと言いたかったのだが、人は駄目だと言っているようにも見えた。

 銀丸しろがねまるは、人間という生き物に、言い知れぬ恐怖を感じたようだ。

 

 人間が、妖かしを無条件に怖れる気持ちと同じであったろう。

 

 妖かしは怖い、ではなく、人間は怖い、だ。



「そのような人間が、我らのことを知ったらどうなるのでしょう?」

 それこそ、宮も案じていることである。


 宮の心配は、銀丸には及びもつかない深いところにあるが、銀丸もその件を軽く考えていいことではないと思ったようだ。


「冥府の存在を知れば、人は侵略される前に侵略しようとするだろう。侵略しなければ、自分達の世界が侵略されると思い込んでいるからな」

 銀丸が目を剥いて、芯から驚いた様子を見せた。

「無知ゆえですか? 妖かしは怖ろしいだけで、問答無用で襲いかかってくると、思っているからなんでしょう?」

 銀丸は、いまいち理解できないという顔をしている。

 


 侵略される前に、侵略するという考え方は、人間的なものであった。妖かしの理解の範中を、越えるところにある。

 そのため銀丸は、自分に分かりやすいように、宮の言葉を受け止めた。


 無知ならば、知識さえ与えれば済むことだと。

 銀丸は短絡的――否、楽観視して自分を納得させようとした。

 

 冥府の者は、人間についてもよく知っているが、人間達は妖かしの存在すら真実と認めていないのである。

 知識がない、または誤った知識を身につけていても仕方がないと、銀丸は人間をまだ甘く見ていた。



 妖かしというものは、自分の領分を犯されない限り、決して自分からは手は出さないものである。手を出す者は、ルールを破る者として、厳しく処罰される。

 

 但し、妖かしにとっては、殺すこと自体は罪にはならない。

 食べる為に相手を殺すことは、本来、生き物に備わったものだからだ。

 

 身を守る為に殺すことも、必要なことである。

 それは妖かしだけでなく、獣も同じだ。

 

 妖かしや獣には、厳然としたルールというものがある――自然の掟だ。

 

 獣達は、ルールを破った時の罰則は自然が、天がつけるが、妖かし達は己らで始末をつける。

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